バンハイムでスタンピード

「…それなのですが、少々困ったことになるかもしれません。西部同盟の中の三家が、我がシュタインベルク家に恭順を申し出てきました」

「うげ、西部同盟的にダメでしょそれ。なんでそんなことに?」

「ええ。西部同盟の認可を得て話を持ってくるようにお返事しましたけど、恭順されても飛び地になりますから、受け入れは拒否するつもりです。どうやら黒死病の特効薬を配ったことが原因のようです」

「え、私のせいじゃん! でもなんで!?」

「爺に聞きましたが、黒死病とは経験した者やその同世代の者にとっては恐怖の代名詞のような存在らしいのです。前回の星の影響病に続き黒死病の特効薬も渡してしまったので、妖精王国は疫病を克服していると見られたようです。ですが妖精王国への直接恭順は妖精王陛下との友誼が無ければ無理。ですので我が家に恭順すれば、疫病の脅威から逃れられると考えたのでしょう」

「うわぁ、まるっきり私のせいじゃん。シュタインベルク家への恭順可否はクラウの判断になるけど、原因は妖精王国が各領主の恭順を受けないからだし…。これは、妖精王国としての指針を明示する必要があるわね」

「アルさんにお知らせしようかどうか迷ったのですが、当家への恭順申し込みですので、判断は私がすべきだと考えました」

「…迷惑かけてごめんなさい」

「ティナ、わたくしは決して迷惑などとは思っておりませんよ。特効薬の配布を決めたのもわたくしですし、恭順受け入れの判断も当主の仕事です。今回ティナに話したのも、相談ではなく、領主同士の情報共有のつもりです」

「ああ、それでアルにじゃなくて私に話してくれたんだ。ありがとう」

「お二人とも、ご歓談中に大変申し訳ないのですが、緊急のご報告があります」

「何かあった?」

「バンハイム南部、西部同盟が失地回復した領の南東にある魔の森で、大規模スタンピード発生の予兆が確認されました」

「地図出して」

「はい。位置関係はこのようになっています」

「…何よその広いスタンピード予想エリア。森からバンハイム首都までの距離は?」

「最短距離で120kmです」

「失地回復領の戦力は?」

「未確認ですが、ほとんど農民のはずです」

「…ごめんクラウ。妖精王国としての対処考えるために帰るわ」

「はい。お気を付けて」

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