領主ごっこ
「アル、お城に戻って来たけど、なんかお仕事ある?」
「移住者の代表から、必要物資の明細が届きました。確認の上、承認をお願いします」
「おお、紙の書類。なんか仕事っぽい」
「ハルシュタット関連の仕事は、余裕がある内は紙媒体にしようと思います。インプラント経由の承認では、領主っぽくありませんからね」
「そだね。どれどれ。……なんか少なくない?」
「遠慮しているのか、それともこの程度の物資が妥当だと思っているのか。一人当たりの消費が、シュタインベルクの半分ほどですね」
「大人が五十人以上いるのに嗜好品類がゼロって、教会関係者だからなのかな?」
「レストランに酒瓶や酒樽も置いてあるのですが、誰も手を付けていませんね」
「衣服の要求も少なすぎるよね。布地の要求があるから自分たちで作るつもりだろうけど、その布地の要求すら少ない。よし、色々書き加えて承認しちゃおう」
「そうしましょう。あと、パン酵母の使い方が分からないようでしたので、イレーネを派遣しておきました」
「うん、ありがとう。元騎士さんたちはどうしてる?」
「まだ来たばかりですから戸惑いも大きいでしょう。広場で鍛錬をした後は、町を探索しているようです」
「子どもたちは大丈夫そう?」
「かなり元気ですよ。宿の館内を走り回ったり探検まがいのことをして、世話役の婦人たちが忙しそうです」
「…いたずらが過ぎたり、あまりに世話役の言うこと聞かなかったら、青×マークお願いね」
「すでに七名が青×マークを受けています。世話役たち大人は顔色を無くしていましたが、子どもたちはよろこんでしまっている節があります」
「…あまりひどいようなら、薄めのしみしみ×マークも使って」
「はい。シュタインベルクと同等基準で運用予定です」
「そうして。あと、大人たち、特に女性陣はストレス溜めてない?」
「婦人の大半が子どもたちに振り回されて、それどころでは無いようです。元騎士の遺族の婦人たちも、子どもの保育に参加していますね」
「そっか。とりあえずは問題無さそうだね」
「そのようです。夕方には他の家人も派遣して、大浴場の使用方法を説明します」
「その方がいいね。黒死病の話は…もう少し落ち着いてからのがいいか。とりあえず清潔にすることで病気に罹る可能性が減るからって説明で、毎日お風呂推奨」
「はい、そうします。あとバンハイムのペストについてですが、何らかの警告はした方がよくありませんか?」
「ああ、うん、考えてるよ。中央教会上層部の下種な証拠映像って、どれくらいある?」
「抗議した実務担当の破門、孤児院閉鎖の密談程度ですね」
「…食事の映像はある?」
「ありますよ」
「贅沢メニュー?」
「ええ。上位貴族並みのメニュですね」
「…よし。聖堂騎士団を武力での改宗目的でシュタインベルクに派遣して、無断越境未遂。騎士団は返り討ちに遭い、西部同盟からも教会関係の武装集団入領を拒否された。シュタインベルクの恩情で生き残りと遺骨は中央教会に帰り着いたけど、上層部は遺族に対して何の補償もしなかった。教会への寄付金が減ったことで孤児院閉鎖を決めたけど、教義を重んじる人たちから抗議を受けたのに、逆に抗議した人たちを破門。孤児の受け入れ先すら決まっていないのに、破門した人と一緒に孤児を追放。実務担当が減ったことで黒死病の遺体にも気付かず、黒死病発生を見逃している。上層部は、浮いたお金で毎日贅沢な食事三昧。こんな感じで映像編集して、首都で上映しよう」
「了解です。解説はどうします?」
「妖精王陛下バージョンで。あ、最後に『こんな愚行を重ねながら神の代弁者を名乗らせるなど、それこそ神への冒涜』って批判しよう」
「民を扇動してますよね?」
「中央教会の上層部は、一刻も早く滅ぶべき。黒死病のこと教えてあげるんだから、これくらいはいいでしょ。ついでだから、感染媒介がネズミとノミだって教えてあげよう」
「了解しました。いつ実行しますか?」
「明日の朝一でいいんじゃない」
「はい、準備します」
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