勧誘

助祭の警戒の色を見たアルフレートは、ティナとの打ち合わせ通り映像通話をすることにした。

接続先はホーエンツォレルン城のティナと、今はシュタインベルクの妖精教会にいる、バンハイムのスラム街近くの孤児院を運営していた助祭だ。

空中に二つの映像を映し出したアルフレートは、映像に映るティナや助祭を紹介した。


だが、空中に映し出される映像を見た一団は固まってしまった。

以前にバンハイム王都で空に大写しされた映像は見たが、あれは一方的に見るだけだった。

しかし今度は、相手が挨拶をして話しかけてくる。

自分たちはどうしたら良いのか分からず、反応出来ないでいるのだ。

そこで、妖精教会の助祭がティナに話しかけた。


「ティナ様。挨拶されて返事を返さぬのは無礼ですが、初めての映像での会話では、仕方のないことかと。どうか少しお待ちいただけませんか」

「うん、分かってる。だから怒ったりしないよ」

「お心遣い感謝いたします。では、そちらにいらっしゃる助祭やシスター、聖堂騎士の方々、ティナ様や私の顔に見覚えはありませんかな?」

「あ、ああ、ある。療養の折は、大変お世話になった」

「いえいえ。神に仕える者同士、ご助力できて良かったです。それで、今回は妖精の巫女様で、新たに妖精が作った都市の領主となられたティナ様が、子どもたちの不遇をお嘆きになって援助を申し出てくださいました。ティナ様は条件が合うようであれば新都市にあなた方を受け入れても良いとおっしゃっていただいておりますが、まずは見返り不要で、食料の支援をとのことでございます。ティナ様のご厚意は、完全に善意であると私が保証します。一介の神の僕の言葉ではご懸念もありましょうが、とりあえずは食事だけでも受けていただけませんか?」

「助祭殿の言であれば、我々元聖堂騎士に疑う余地はない。しかも療養中の治療でお世話になったティナ様のご好意となれば、我々元聖堂騎士は、ありがたくお受けしたい。ティナ様、突然のことでご挨拶やお礼が遅れてしまったこと、申し訳ございませんでした」

「こっちこそ驚かせちゃってごめんなさい。他のみんなにも食べて欲しいけど、そちらの助祭さんはどうかしら?」

「大変失礼いたしました。私もそちらに映る助祭の顔は、元同僚としてよく知っています。ティナ様のご厚意、我々もありがたく食させていただきます」

「良かった。じゃあアルフレート、あとお願いね」

「承知いたしました。ではみなさん、あちらにどうぞ」


ティナとアルが一団への接触方法を考えた時、一番問題になったのが信用だ。

ティナは聖堂騎士の怪我の治療のために騎士とは面識があったが、他の者たちとは初対面だ。

知らない幼女が移住を受け入れると言っても、信用度は皆無どころか怪しまれてしまう。

しかも食事を提供するだけでも人手が足りずドローンを使うしか無いのだから、宙を舞う食材や食器に、怪しさは跳ね上がる。


そこでクラウと連絡を取り、許可を貰って妖精教会の助祭に説得の手助けを求めた。

助祭は聖堂騎士たちに毎日付き合って間違った行動を諌めていたし、元々王都の教会で働いていたのだから知り合いも多いはずである。

実際一団のまとめ役が元同僚だったため、話はスムーズに進んだ。


食事を始めるために配膳しようとしていたアルフレートに、シスターたちが手伝いを申し出た。


インビジブル状態でワンプレート皿に乾燥食料を盛り付けていくドローンは、シスターたちにはカサカサの何かがが宙を舞っているようにしか見えなかった。

だが、カサカサの個体が載ったプレート皿が四角い箱の中を通ると、見事に湯気を立てた美味しそうな料理に変わる。

眼の前で起きる奇跡のような出来事に、シスターたちは祈りを始めてしまった。


配膳が遅れて日が沈んでしまったが、天幕内に浮かぶ明るい光球が皆を照らしていた。


今回ドローンによる摩訶不思議現象を多用して見せたのは、人手不足もあったが、狙いは妖精を印象付けること。

受け入れを表明しているホーエンツォレルン領は、妖精と共にあることが当然の領だと理解して欲しかった。

魔の森中央に位置する領なのだから、妖精の加護が無ければ不安も当然だろう。

だからこそ、実際に妖精が近くにいると実感させたかったのだ。


アルから説得されてドローン妖精に対する考え方を変えたティナは、機械妖精であるドローンの本体も、いずれは見せても良いのではないかと思うようになった。

妖精の本体はドローンの形状だが、人を怖がらせないために可愛い妖精の姿を見せている。

これなら、機械を理解出来ない人たちにも嘘の説明にはならないのではと、ティナは考え始めていた。


中央教会を見限った一団には、美味しい食事で腹を満たしたことで笑顔が戻っていた。

教義を無視する腐った中央教会に未練は無いが、先行きや思うように集まらない食料に不安を感じていたため、アルフレートからの援助の申し出によって食の不安が和らいだのもいい方向に働いたのだろう。


満腹になって広い天幕に案内され質の良い毛布まで配られた一行は、不安を忘れて気持ちよく眠りについた。

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