接触
アルが移動している間に、王都を出た一団は王都西の町に到着していた。
この町にも年長の孤児が養子となる家が一軒あるのだが、年長の孤児たちは誰も養子先に行こうとはしなかった。
年長とはいっても八歳から十二歳までの子どもだ。孤児仲間や孤児院のシスターから離れ、一人で養子に行く勇気は無かったのだろう。
この一団を纏めていた助祭たちも、無理に孤児を養子に行かせようとはしなかった。
自分たちの生活を優先して孤児を放り出すような教会上層部が決めた養子先など、労働力として売りに出された可能性が高い。
養子として縁組されることなく、奴隷まがいの使われ方をする危険性を助祭たちは危惧していた。
だが一方で、破門されて行く当てのない自分たちに、孤児を巻き込んでもいいのかという思いもある。
教会上層部は西部同盟が孤児たちを受け入れると言ってはいたが、受け入れの書状を要求する助祭に書状が渡されることはなかった。
普通なら、受け入れ先領主が発行した書状を持って相手先に行くのが当然だ。
書状も無く相手先を訪れても、実際に受け入れの約束はなされたのか、なされたのであれば、受け入れの対象者なのかどうかを確認するすべが無いのだから。
しかも西部同盟は、教会武装勢力の入領を拒否する通達を中央教会に送ってきている。
それは、中央教会と西部同盟が揉めているという証拠ではないか。
揉めている相手が、中央教会の望みに応えて受け入れてくれることなどあるのだろうか。
助祭は、受け入れに関してはおそらく教会上層部の嘘だろうと考えていた。
そう考えた上で西部同盟を目指しているのは、食料が豊富な西部同盟なら、せめて子どもたちだけでも受け入れてもらえないかという淡い期待があるからだ。
今、バンハイム国内で食料が一番多いのは西部同盟だ。
それ以外の地域では食糧難で人を受け入れる余裕など無い。
この一団にとって、まさに一縷の望みが西部同盟なのだ。
ひとつ目の町を発った一団は、王都と西部との関係悪化で人通りの減った街道を進んでいた。
この一団への参加者は、大半がカリアゼス教を破門された者たち。
教義を守って孤児を保護すべきと進言した助祭やシスター、改宗を迫る遠征を命じた中央教会を批判する聖堂騎士、その遠征で身内を失ったのに、教会から何の補償も受けられず抗議した遺族たちもいる。
皆、神に対する信仰を失ってはいないが、我欲に満ちたバンハイム中央教会には愛想を尽かし、その中央教会が幅を利かせる場所から去ることを決意して旅に同行している。
もちろん孤児たちもいるが、孤児たちの面倒を見る者を中央教会は破門者たちに押し付けた。
非合法な集団を金で雇い、脅して半強制的に首都から追い出したのだ。
そしてそのことを知った聖堂騎士たちが、義憤に駆られて同行していた。
脅された者たちは、首都を離れるために財産を処分してお金に替えて旅路に備えてはいたが、思った以上に旅路の食料調達が困難だった。
食料が高い上に、購入量を制限されたのだ。
売る側は、在庫が少ない食料をいきなり百二十人分も買われては、常連客に売る分が無くなってしまうのだから仕方のないことではあった。
途中の町で食料を買い足しつつ移動しようとしていた一団は、早くも食料不足に悩まされることになった。
徒歩で幼い孤児も抱えているため一団の足は遅く、夜までに次の町に到達するのは難しい。
魔獣の襲撃は怖いが、幸い元聖堂騎士が一行の中にいる。
日が落ちてからの移動など怪我の危険も多いので、そろそろ野営の場所を探そうというころ、一人の男が街道に立っていた。
男はアルフレートだ。
貴族家に仕える執事のような出で立ちのアルフレートは、一団に対して軽く礼を執ると、先頭の助祭に話しかけた。
自分は妖精王国に所属するホーエンツォレルン領の領主に仕える者で、領主からの命で、孤児を守って移動する心優しい集団に、せめて食事と休息を提供したいと申し出た。
街道から少し離れた草原に張られた天幕やテントを示して。
助祭たちは驚いた。
天幕があるのは当然気付いていたが、よく見ると湯気を立てた料理らしきものが、器に盛られて勝手に空中を移動しているのだ。
更によく見ると、羽根の生えた可愛らしい妖精の姿が微かに見えることがある。
漂ってくる美味しそうな匂いと妖精の姿に気付いた孤児たちが、歓声を上げた。
だが、助祭は警戒を強めた。
人気のない街道で、妖精のような何かが作る料理。
もう怪しさ満点だ。
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