孤児たちを助けたい

新たなデミ・ヒューマンが六人いても、人という個性を体験させられるのは、ティナにしか出来ない。

先人たる三人のデミ・ヒューマンにも個性が出てはいたが、完全な個たる人間は、ホーエンツォレルン城にはティナしかいないのだから。


しかも一度にティナとデミ・ヒューマンたちを一緒に過ごさせると、デミ・ヒューマンたちは同じ反応になってしまう。

デミ・ヒューマンたちの個性の分化を刺激するなら、個々に違った環境でティナと過ごさせるのが一番だ。


ティナ自身、自分の意見で生まれることになったデミ・ヒューマンたちに責任を感じており、対応に手を抜くことなどありえない。

個別に手を替え品を替え色々な体験をさせて、初めてのお使いに送り出した。


やっと二期生のデミ・ヒューマンたち全員を送り出したころ、アルフレートが孤児院を締め出された孤児に関する報告を上げてきた。


「ティナ、バンハイムの孤児院から締め出される孤児たち、いよいよバンハイムを離れるようです」

「意外に時間がかかったよね。受け入れ先でも探してたのかな?」

「いいえ。中央教会内で内紛が発生しました。弱者救済どころか弱者を虐げる中央教会上層部に対し、教会の実務を担う助祭やシスター、修道士たちが、教義を歪めていると糾弾を始めたのです。結果教会上層部は、反抗した助祭やシスターを破門しました」

「え? 自分で実働を担う手足切っちゃったの? バカじゃないの」

「破門された助祭やシスター、修道士たちは、孤児を連れて王都を出ていくようです。そこに前回シュタインベルクで騒動を起こした聖堂騎士団の生き残りと、亡くなった騎士の遺族たちが合流しました」

「すごい大所帯じゃない」

「現在120名ほどの集団ですね」

「うわぁ…」

「ハルシュタットに受け入れますか?」

「子どもたちは受け入れるつもりだったけど、大人たちはどうだろう? 教義を信じて抗議したんだから、妖精王国所属の都市になんて来るかなぁ? それにハルシュタットは宗教を自由に選択出来るようにするつもりだから、破門されたとはいえカリアゼス教の信奉者ばかりが来るのも困るんだよね」

「では、妖精教の新都市として、布教と入信者勧誘は制限している都市に来る意志があるかどうか確認しますか?」

「また妖精教!? シュタインベルクの二の舞いになりそうなりそうな気がする」

「現在ここには町どころか城を維持するのでさえドローンが必要なのですよ。ドローンの存在を隠蔽するには、妖精は欠かせません」

「…分かってはいるのよ。だけどまた住民たちを騙すのかぁ」

「騙すと言いますが、本当にそうでしょうか? この世界の住人にとってドローンは、理解出来ない未知の存在です。妖精も理解不能な未知の存在では? それなら、ドローンは機械妖精と言っても問題無いと思いますよ。住民が新たに魔法で妖精を生み出す可能性を事前に伝えておけば、こちらの制御出来ない妖精が生まれても問題無いでしょう」

「機械妖精って…。でもそうか。私はアルがドローンを操ってるの知ってるけど、住民にとっては妖精王配下の妖精ってことになるのか。生まれる可能性のある妖精も、住民たちの魔法が生むんだからそれは住民たちの選択か。うん、なんとか納得出来たよ。ありがとうアル」

「どういたしまして。ティナの健康管理は私の仕事です。今回は精神面をケア出来たようで、頑張って思考した甲斐がありました。それでは、移住の勧誘に際し、どのような情報を事前に開示しますか?」

「出来たばかりで無人の自治城塞都市、場所は魔の森内の隔離された都市だけど魔獣の脅威は無し、所属は妖精王国、領主家は妖精教を信奉、だけど個々の宗教選択の自由のためにしつこい布教や勧誘は禁止、十歳未満は衣食住完全保証、移住当初は十歳以上も衣食住一年間保証。こんなとこでどう?」

「領主家への従属と一般的な犯罪行為の禁止、十二歳以上の職業体験と十五歳以上の労働義務を追加しませんか?」

「ああ、一応それも必要か。あ! 六歳以上十二歳未満は学舎への入学義務あり。それと犯罪及びそれに準ずる行為は、妖精による×マークや収監、労役あり」

「そうですね。他に質問がるようなら、シュタインベルクに準拠しましょうか」

「それでいいね。じゃあ大変そうだけど、アルに説明役をお願い出来る?」

「当然です。そのためのボディですから。あと移住希望者は催眠ガスで眠らせての空輸でいいですか?」

「うん、それでお願い」

「了解しました」


話を終えたアルフレートは、大型ドローンに搭乗してホーエンツォレルン城の地下秘密基地を飛び立った。

バンハイム付近まで行くにはバッテリーが持たないので、支援用の食料コンテナと、中型の発電機を一個抱えての移動だ。

この発電機やコンテナはインビジブル機能を持たないため、ドローンのインビジブル機能で包み込み、発電機を動作させて充電しつつ移動するという強硬策で移動距離を伸ばしている。


長距離を移動するなら航空機の方が早くて便利なのだが、残念ながらアルの持つ航空機は、航行時に駆動音が出てしまう。

誰にも気付かれずに移動するなら、時間がかかってでもドローンの反重力デバイスによる無音航行を利用するしか無いのだ。


アルは先に配備したドローンでバンハイムの首都を出た一団の動向を探りつつ、接触するポイントを選定し、接触の機会を窺った。

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