弱者をいたぶる似非宗教
「ティナ、バンハイムのカリアゼス中央教会が、孤児院を閉鎖し始めました」
「なっ! 孤児たちはどうなってるの!?」
「一時的に大きな孤児院に集められていますが、環境は劣悪です。食料高騰を理由に、地方の孤児院に送ろうとしているようですね。八歳以上の子どもたちはバンハイム南部の農家に養子として出すようですが、八歳未満の子どもは西部同盟に移送すると、神官たちが話しています」
「八歳以上は、難民化して逃げ出した農民の穴埋めに使う気なのかな…。西部同盟って、孤児受け入れとかの情報ってあったの?」
「全く確認出来ていません」
「……嫌な予感がするわね。インビジブルのドローンやローバーって、どのくらいバンハイムに派遣出来る?」
「ドローンは、大型中型が六機ずつ、小型は四機。ローバーは、大型三機、中型二機、小型一機です。ですが充電基地がありませんので、発電機だけでは運用にかなりの行動制限がかかります」
「とりあえずドローンは各二機ずつ、ローバーは大型を三機ともバンハイム首都の西側に向けて発進。近場の見つからない場所でソーラー充電しつつ待機させて」
「了解です、手配しました」
「あとバンハイム首都にあるドローンは、中央教会を重点的に監視させて情報収集」
「了解。ティナに質問です。どういった状況を予測したのですか?」
「う~ん…。漠然とした不安に、ある程度対処出来るようにかな。養子に出される子たちは多分労働力として受け入れられると思うんだけど、八歳以下の子たちはやばい気がするの。西部同盟に移送って、下手すると途中で放り出されるかもしれないから」
「なぜそのような懸念が?」
「孤児院の閉鎖は、カリアゼス中央教会が財政難だからよね?」
「それは予想されていたことですね」
「教会が孤児院を運営してたのは、カリアゼス教の教義に弱者救済があるから。でも財政難で閉鎖せざるをえないから、建前として受け入れ先を見つけたことにするの。そうしないと住民たちが不信感を持って、信心をなくす可能性があるから」
「それも理解出来ます。ですが八歳以下の子どもたちは、なぜ放り出される可能性があるのでしょう?」
「だって、弱者救済が教義にあるのに、自分たちが地方の教会に出て行ったりして中央教会の支出を倹約することも無く、いきなり孤児院閉めて子どもを追い出してるんだよ。孤児たちより自分たちを優先してるって、バレバレじゃん。そんな人達が小さな子どもを大勢かかえて、わざわざ西部同盟まで移送してくれるの? 西部同盟に打診さえしてない可能性高いんだから、受け入れてもらえなかったらどうするの?」
「…予測不能です」
「一番楽なのは……ごめん、予想でも言いたくない」
「ああ、なるほど。移送したと嘘をついて戻るわけですね。ローバーは、子どもたちの保護用でしたか」
「根拠のない憶測だから、使わなくて済むなら一番いいんだけどね」
「バンハイムはティナの予想をことごとく外してきますから、大丈夫じゃないですかね。一応備えはしておきますが」
「なにその根拠? まあ、今回の予想は外れた方がいいけど」
「ホーエンツォレルン領の人員配備は未だ初期段階ですが、最悪の場合、子どもたちを受け入れることも可能ですよ」
「そうだね。状況次第だけど、なんとかなるか」
「はい。推移を見守りましょう」
バンハイム王都で起こった孤児院の閉鎖という事態に、ティナはやるせない思いだった。
カリアゼス教バンハイム中央教会の運営陣は、自分たちの生活の質を下げて孤児たちと共にあろうとするのではなく、質を下げないために孤児たちを切り捨てたのだ。
宗教とは、本来人を救済するためのものだとティナは考えていた。
だが、中央教会は弱者を切り捨てて強者である運営陣の生活を守ろうとした。
はたしてそのようなことをする宗教に、存在価値はあるのだろうか。
そして、暴挙と呼ぶべき愚行を許す周りの人々にも、ティナは失望の念を禁じえなかった。
落胆を隠せないティナだったが、新たなデミ・ヒューマンたちの個性の分化と性差の意識づけに奔走しているうちに、やがて元気を取り戻していった。
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