初めてのお使い

そして始まったティナとデミ・ヒューマンの共同生活。

と言っても、ティナは領主としてのロールプレイ。

メイド二人と執事一人が仕事をこなし、実体験の中でデータを蓄積していく。


ただし、三人同時に同じ仕事をさせるのではなく、必ず別々に仕事を体験させる。

個別に同じ仕事をさせる場合でも、時間や条件を変えて体験させることで、経験という蓄積データに差を付けるようにした。


夜にはアルが記録したシュタインベルクの人々の映像を個別に見せ、その人物が次に取るであろう行動と心情を予測させる。


この試みはティナの発案で、周囲の状況や人物の表情をサンプリングさせ、デミ・ヒューマンたちの感情予測データを充実させて個性を育もうという狙いである。

そして三人に同性の人物の映像を多く見せることで、個性の分化と性差の意識強化を図っている。


そんな生活が二週間ほど続くと、三人には個性が現れ始めた。

三人に同じ質問をしても微妙に違った答えが返ってくるようになり、同時に同じ作業をさせても所作に差が出るようになった。

表情の作り方にも変化が出て、会話していても、ごく自然な表情を浮かべられる。


ここまで来れば、人に混じって生活しても大丈夫だろうということで、クローズドベータテストは終了である。

続いてはオープンベータテストと行きたいところだが、デミ・ヒューマンの素性を明かしてフィードバックを得るのは不可能だ。

クラウなら何も聞かずに雇ってもらえるだろうが、ティナ的に友人に隠し事するようで気が引ける。


結局、いきなり実戦投入することになった。

三人を別々に違う場所に行かせ、ある目的を果たして帰ってくる。

いわゆる、初めてのお使いをさせるのだ。


目的地に行くために人から情報を集め、限られた予算内で目的を達成して帰ってくる。

出発地、目的地、目的、予算全てバラバラ。完全な単独行動任務だ。

ただし、ティナ以外の事情を知らない人間との初接触なので、治安が良くトラブルのフォローもしやすいシュタインベルク領内が最初の実習地に選ばれた。


一応小型ドローンを一機専属で付けるが、あくまでカメラ代わりとトラブル時の緊急対応用だ。

ティナは、某テレビ番組でモニターを見る親のような心境になった。


最初はちょっとした買い物から始まり、次第に移動距離や接触する人物が増えるような目的へと移行。

最後は他領間を、旅費を稼ぎながらの旅までこなしたデミヒューマンたち。


多少のトラブルはあったものの、この世界での旅なら人間であってもトラブルは付き物だ。

三人は見事に全てのお使いをこなし、ホーエンツォレルン城に戻って来た。


ティナの思惑はかなり当たったようで、戻ってきた三人には、充分に個性と呼べるものが備わっていた。

同時に同じ質問をしても三人とも仕草や反応がかなり違うため、もう人と見分けは付かないだろう。

ティナは三人への教育を終了とし、一週間の休みを与えた。


すると三人は、それぞれ違った休日を過ごし始めた。

クラウスは湖で釣りをしたり、狩りのために森に入っていく。

当初は成果ゼロだったが、アルが収集した釣りや狩りの映像を見せて貰い、楽しそうに出かけて試行錯誤を繰り返している。


フィーネはアルから布を貰い、服を作り始めた。

ただデザインは、ティナの前世の記憶にある女性服。

一連のお使いで見た女性たちの服装が、ティナが記憶から引っ張り出してアルに作らせたメイド服ほど可愛くないというのだ。

そのためティナに許可を得て、ティナが覚えている女性服の記憶をアルに見せて貰っていた。


イレーネは食に拘った。

一連のお使い中に食べた食事がホーエンツォレルン城で食べたものと違いすぎると言って、ティナと一緒に食事やお菓子を作り始めた。

そして成果を出し始めてクラウスが持ち込む魚や小動物を一緒に捌き、昼食や夕食のメインとして提供するようになった。


食事はティナとアルフレートを含めた五人で摂り、クラウスの獲物の話、イレーネの料理の話、フィーネの服の話で盛り上がった。


そんな生活が二ヶ月ほど続いた頃、新たな六人のデミヒューマンが加わった。

今度は男性体二人に女性体四人。

最初の三人が問題なく個性や人間性を獲得したため、アルがホーエンツォレルン城運営のために人員増強を始めたのだ。


男性二人をクラウスに、女性四人をフィーネとイレーネに預けて教育に当たらせた。

当初ティナとドローンしかいなかったホーエンツォレルン城は、徐々に人の気配が濃くなって活気付いていった。

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