デミ・ヒューマン

しばらく南国の島を楽しんでいたティナは、アルからハルシュタットへの帰還を要請された。

生体ドローン改め、デミ・ヒューマンの実用テストが可能になったからだ。


今回誕生したデミ・ヒューマンは三人。

女性体二人男性体一人で、いずれも十五歳相当の外見である。

アルによって基本的な情報を与えられた電子脳を持つが、実体験が無いために未分化な状態。

ティナと共に生活することで色々な体験を積み、分化を促進させたいとアルが申し出たのだ。


ホーエンツォレルン城でデミ・ヒューマンたちと初対面したティナは、若干拍子抜けしていた。

デミ・ヒューマンたちは個性が発達しておらず、アルが与えた基本情報を判断基準にしているために反応がシンクロしてしまうが、個別に話をすると違和感をほとんどど感じないのだ。


個別に同じ質問をすれば同じ答えが返っては来るが、一人として見れば、良く言えば平均的な、悪く言えば無個性な人間にしか思えなかった。

容姿や性別が違うことも、人に与える印象が違っているからだろう。


ティナからフィーネと名付けられた女性体は、金髪碧眼で背も高め。

未だ表情の出方が薄いものの、クールな美人といった印象を与えてくる。


イレーネと名付けられたもう一体の女性体は、明るい茶髪と琥珀眼。

背が低めで目が大きくて若干タレ目なため、かわいい印象を受ける。


クラウスと名付けられた男性体は、モカブラウンの髪にヘーゼルの瞳。

身長も高めでスリム、髪が短く整えられていて顔の彫りが深めなため、精悍な印象だ。


そしてアル専用の生体ドローン。

アッシュグレーの髪に翠眼で、身長も高くやや筋肉質。

こちらは出来上がったばかりだが、アルが操作するので問題ないだろうと、急遽登場したのだ。


だが、聞き慣れたアルの声で話す見知らぬ若い男性に、ティナの脳は混乱した。

どうやらティナの中では、すでにアルのイメージがデフォルメレッサーパンダで固定されていたらしく、脳がイメージの違いを受け入れられなかったようだ。


ティナが混乱する様子を見たアルは、密かに安堵した。

たった一体の生体ドローンでもティナが混乱するなら、家人全てをリモート生体ドローンで揃えた場合、ティナの対人識別能力がおかしくなった可能性が大きい。

ティナに大きな悪影響を及ぼさずに済んで良かったと、アルは半ば無意識に生体ドローンの胸をなでおろした。


ちなみにアルのリモート体は、アルフレートと命名された。

そしてティナを頂点とした領主家と家人は、対外的にホーエンツォレルン姓を名乗ることになった。

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