孤島遊び

ハルシュタットの街づくりや妖精祭ではっちゃけたティナは、そのままの勢いで孤島基地化計画に邁進した。

冬に飽きて、南の島に逃げたとも言う。


孤島の基地化は前回訪れた際に置いていったドローンが工事を進めていたが、機数が少なく電力事情も乏しいために、進捗率は20%程度だった。

だが今回、ハルシュタット建設に使用していたドローンの大半を輸送して来た。

そしてダーナがあるので電力事情も潤沢だ。

工事は一気に進むだろう。


久々に海に来たティナは、魚が食べたくなってまた海釣りを始めた。

ただ今回は前回の失敗を反省し、釣り上げた魚の多くをアルに燻製化してもらった。


魚料理を一通り堪能したティナは、クラウたちへのお土産にしようと、魚釣りに勤しんだ。

アルは燻製化した魚を冷凍保存していたが、こっそりとドローンで捕獲した魚をそのまま冷凍したり、調理後に冷凍しておいた。

ティナがいつでも食べられるようにと、言われずとも色々準備しておくオカンなAIなのである。


この島はかなり熱帯寄りの気候らしく、時々スコールが降る。

中央火口丘はスコールが来るとカルデラ湖から顔を出している部分がほとんど無くなるため、ハルシュタットとは逆にカルデラ湖の水位を下げる排水路を作った。

ただ排水するだけではもったいないので、落差を利用した水力発電機も設置。

湖面と敷地の比率は、アルプスの瞳のような比率を目指している。

ティナの設計では、建物もアルプスの瞳の教会をまねる予定だ。


やがて釣りに飽きたティナは、島の探検を始めた。

すでにアルのドローンによって島は隅々まで探索されているのだが、視覚レイヤーで画像として見るより、実際に歩いて見た方がリアリティがある。

もっとも歩けるような道は無いので、中型ドローンに乗っての移動だが。


それでもティナは、探検と称した散歩を楽しんだ。

アルも特筆すべき場所以外はティナに見せていないので、ティナは充分に探検気分を味わえた。


探検中ティナが特に気に入ったのは、少し入り江っぽくへこんだ場所の小さな砂浜。

海流の影響か島の形状的なものか、この島で砂浜があるのは、唯一ここだけだ。

しかもこのビーチ、干潮の時しか現れない。


島の周りは急深なので、幅の狭いサンゴ礁が周囲を囲んでいる。

おそらく剝離したサンゴが島に当たって砕け、この場所に集まってできた砂浜だろう。


ケリンキンビーチを幅100mほどに縮小したようなこの入り江は、ディープブルーからコバルトブルーを経てエメラルドグリーンに変化する海、白波の白、砂浜の淡いクリーム色、熱帯に近い植生の林の緑が、見事なグラデーションを成していた。


ティナは一目でこの場所が気に入った。

だが、岩の崖に囲まれたこのビーチは、満潮時にほとんど水没してしまうために建物は建てられない。

タヒチのように水上バンガローでも建てたいところだが、入り江の外はすぐに急深な外海。

たとえ入り江内でも湾が小さいため、海が荒れれば波打ち際まで影響が出るので、水上バンガローなんて無理だ。

荒波に耐える頑強な建物にすると、せっかくの風景を台無しにする。

崖上も見てみたが、家を建てられそうな平地は無い。

カッパドキアのように洞窟の家を崖に作ることは出来そうだが、景観にいまいち合わない気がする。


入り江近くをあちこちドローンに乗ってうろうろしていたティナだったが、潮が満ちて砂浜がほとんど水没してしまい、リゾートコテージ計画をあきらめた。



一方のアルも、ダーナとソーラーパネルによる豊富な給電力を使い、カルデラ島周辺の海底資源調査を始めていた。

ティナは遊んでいてアルだけが仕事をしているように見えるが、アルにとって資源調査は楽しい遊びに近い。


火山活動が停止して長いために熱鉱床などは発見出来なかったが、そのなごりか、浅い深度で希少金属が発見された。

そしてアル的に一番うれしかったのが、鉄鉱床の発見である。


この鉱床から鉄を精製すれば、わざわざアオラキから鉄を運んで来る手間が省ける。

なにせこのカルデラ島は完全武装の予定で、兵器や軍事設備には多くの鉄が必要になるからだ。


アルは海底資源調査を中断し、鉄鉱床の海底掘削基地建造を始めた。

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