互いにお金を払いたがる

そして今日からは、また現実と向き合わなければならない。

まず始めるのは、夢の跡の撤収作業だ。

ところが、いざ片づけ始めるとお昼を待たずに片付けは終わってしまった。


元々出店は空き店舗を利用していたため、片づけるのは飾り付けと道具類だけ。

その道具類もお祭り終了と共に兵士たちが洗ってしまっていたので、店別に箱に詰めて近くの空き倉庫に積めば終わる。


ティナが『兵士さんたち、偉い!』と褒めれば『使い終わった道具をそのままにする兵士なんかいないぞ。野営とかで洗わずに仕舞ったら、次はとんでもないことになってるからな』と返された。

どうやら兵士たちには、使った後は手入れして仕舞う癖が付いているようだ。


お昼前、ティナは兵士たちに、昨日集まったチケットに応じた報奨金を出した。

司会の兵には、アルが数えた集客数に応じた額を出した。


この報奨金はティナの自腹で、兵たちは思わぬ臨時収入に戸惑った。

兵たちには領から決まった給金が毎月出ているため、昨日の手伝いも給金内の仕事だと思っていた。

しかも自分自身かなり楽しかった。


楽しく仕事が出来て領民に笑顔で感謝されただけでもありがたいのに、臨時収入まで付いてきた。

これでは報酬の二重取りではないだろうか。

そう問う兵士に『普段の業務から外れた仕事なんだから、追加報酬は当たり前。その金額は、領民を楽しませたご褒美だから』と、ティナは報酬を押し付けた。


兵たちと共に領主館に戻ったティナは、クラウから材料費と道具代の請求を請求された。

請求してくれと求められたのだから、言葉は間違っていない。


「あのぉ…。私、妖精貨貰っても意味無いんだけど…」

「あ、そうだったわね。妖精貨、アルさんが作ってるのよね。でもねティナ。あのお祭りは、シュタインベルク家として領民の働きに感謝する意味を込めたの。だからうちが支払わないと、意味が無くなっちゃうわ」

「ああ、領民への還元だったんだ。ごめん。単なるお祭りと思って勝手に規模を大きくしちゃったから、私が持たなきゃって思ってたんだ。じゃあ、当初の予算分だけもらうのはどう? 規模を大きくした分は、責任取って私の自腹ってことで」

「いえ、全額払わせて。領民があれほど楽しんでくれたのなら、やはりうちで払いたいわ」

「それだと私が押し売りみたいになっちゃうよ」

「あのね、これでもずいぶん支払う額を減らしてるのよ。材料費と道具代だけで、企画やアイデア、指導代は全く入っていないわ」

「だってそこは私がやりたくてやったことだから、お金貰うのは違う気がする」

「だからそれは入ってないから、材料費と道具代くらい払わせてよ」

「う~ん…。アルはどう思う」

「この場合はいただくべきでしょう。シュタインベルク領として領民に還元したいという気持ちと、ティナが楽しむために規模を拡大したのでは、前者の方が大切でしょう? ティナは勝手をしたわけですから、ここは責任を取って支払いを受けるべきです」

「責任取ってるのに貰う額が増えてるよ?」

「ティナにとっては金額が増えた分心苦しくなるのでしょう? ならば勝手した罰を受けたようなものです」

「むぅ。…そう言われると仕方ないか」

「ではクラウ、請求は9,200Fです」

「…え? 桁が間違っていませんか?」

「違っていませんよ。きちんと妖精商会の仕入れ値相当です」

「……今回の予算、当初の規模で30,000Fなのですが…。しかも仕入れ値はおかしいです」

「クラウはティナから儲けようとしますか?」

「…その言い方はズルいです」

「ティナとクラウは親友なのですから、当然お友達価格です。原価割れはしていませんので、ご心配なく」

「兵に追加報酬を払ったと聞きましたよ。その分は入っていませんよね?」

「兵士の業務に出店の売り子や司会は含まれるのですか?」

「…含まれません」

「では業務外です。兵たちに業務外の仕事をさせたのはティナですから、当然ティナが支払うべきです」

「ですが、業務時間内です」

「冬のこの時期、本来なら兵たちの通常業務はかなり楽なはずです。その分の給金は領から出ているのですから、業務から外れた重労働をさせたティナは、当然上乗せ分の報酬を支払うべきです」

「…ティナ、アルさんが虐めてきます」

「そんな!? 事実しか言っていませんよ!?」

「ぶはっ。このやり取り、私とアルノルトさんでも似たようなのがあったよね。アル・アルコンビ、似すぎじゃない?」

「アル・アルコンビって…。ぷっ」

「クラウはノル・ノルコンビがお気に入りだっけ?」

「ノル・ノル? ……ぶは。ちょ、ティナ。やめ…」


ノル・ノルコンビが指す人物に途中で気が付き、お腹と口を押えてヒクつくクラウ。

見ていたティナも、つられて口を押えている。


「楽しそうですね」

「「ぶはははははは」」


アルの一言で、なぜか二人の我慢が崩壊した。

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