妖精祭

その後もティナは木工職人に動作原理や改良点を指導したりしているうちに、シュタインベルク初の妖精祭の準備が始まってしまった。


当然のようにノリノリで準備に参加するティナ。

アルノルトは大人し目の祭りにするつもりだったが、気付けばほとんどティナの企画書通りの規模に。

出店も多く並びビンゴやリバーシの大会、ちびっこ歌合戦、雪像コンテストまであり、全てに賞品付き。

当然運営陣は人手が足りず、ティナは兵士と交渉して実働部隊に組み込む始末だ。


兵は魔獣討伐も積雪で無くなり、年末年始で来訪者も減っているし、種蒔きや収穫の手伝いも無い。

手が空いていれば、当然使うのがティナ仕様。

お祭り盛り上げ隊なるものを勝手に発足し、兵を焚きつけて指示を飛ばす。


アルノルトが頭を抱えている間に、怒涛のように進む準備。

様子を見に来たクラウがワクワクで目を輝かせてしまったので、もう誰も止められない。


道具類の加工は全てアルが担当し、テキ屋の兄ちゃん代わりの兵の指導はティナ。

知らない遊びを体験したり変わった食べ物を試作して食べた兵たちは、楽しさに気付いてノリノリになってしまった。


司会にはこれまた兵を使い、話し上手や盛り上げ担当を抜擢した。

領主家は飾り付けや当日の警備体制構築くらいしか仕事が無く、祭りの規模に対して少なすぎる負担に肩透かしぎみだった。


そして迎えた妖精祭当日。

幕を張って通行止めにされていた第二城壁一階の未使用エリアが解放されると、住民たちが押し寄せた。


食べたり遊んだりするのは、ティナが事前に住民に配布したチケットを使う。

もちろんお金も使えるが、連続して遊んだり食べ物の大量買い占めは不可。

あくまでチケットを持つ住民が優先だ。


大声で呼び込みをするにわかテキ屋。

感情を込めた言葉で盛り上げるにわか司会。

初めて見るお祭りに興奮しまくるちびっこたち。


雰囲気につられて歓声を上げる住民たちの頭上に、うっすらと見え隠れする妖精たち。

夕方になっても歓声は収まらず、暗くなりかけた会場を妖精たちが光を灯して明るくしてくれた。


やがて食材や景品が無くなり始め、クラウが祭りの終了を宣言したことで、やっと人波が引き始めた。拍手はなかなか鳴りやまなかったが。

外は完全に夜。普段なら、そろそろ寝ようかという時刻だ。


「ティナ、ありがとう。こんなお祭りが出来たのは全部アルさんとティナのおかげよ」

「それはさすがに言い過ぎ。実際働いたのは、ほとんど兵士さんたちだから」

「それでも感謝はさせて。領民がこれほど楽しそうにしている姿が見られるなんて、思ってもいなかったわ」

「盛り上げたのも兵士さんたちなんだけど、まあ感謝はきちんと受け取ったよ。私自身、すごく楽しかったから、クラウにもお礼言いたいんだけど」

「私も感謝を受け取るべきよね。ティナが楽しんでくれたなら、うれしいわ」

「クラウも楽しかった?」

「ええ、とっても」

「じゃあよかった」

「うん、よかった。でも、そろそろ祭り気分からは抜け出さないといけないわね」

「そうなんだけど、今日は気分いいから寝るまでこのままがいいな」

「クラリッサ様。明日になれば片付けなどで嫌でも現実に引き戻されます。今日くらいは、夢見心地のままでもよろしいかと」

「…今、片付けの言葉で一瞬現実に引き戻されかけたわ。でもそうね。今日くらいは、夢に浸りましょう」

「これは失言でしたな。では、今日はこのまま館に戻りましょうぞ」

「ティナも、一緒に帰ってお風呂に入りましょう」

「うん」


その日は心地よい疲れに抱かれ、気付いたら朝を迎えていたクラウとティナだった。

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