聖堂騎士

シュタインベルクでは、襲撃者の生き残りを武力による国境侵犯者として捕らえ、空いていた感染対策用の隔離施設に監禁し、治療を開始。

生き残りは、重症の騎士六名だけであった。


死者はバンハイム王都スラム街近くの孤児院から移住したばかりの助祭とシスターによって、カリアゼス教式の葬儀が行われた。

その後荼毘に付され、生き残りから聞き取った名前が書かれた小さな棺桶に、遺骨が収められた。


本来ならこの後埋葬されるのだが、異教の地に埋葬などされたくないだろうと、生き残りが回復次第、仲間の手によってカリアゼス中央教会に運ばれる。


本来、武力による国境侵犯など戦争誘発行為となり、たとえ生き残っていても死罪なのだが、死者を故郷に返す運搬人となる条件で、×マークと国外追放処分となった。

今回の事件によるシュタインベルク側の被害は、軽症の兵三名と少し歪んだ落とし格子のみだったこともあって、かなり罪が減じられた形だ。


葬儀を行った助祭とシスターは元々バンハイム王都のスラム街近くの教会を預かっていたため、数人の聖堂騎士が顔を見知っていた。

助祭とシスターは葬儀ののち監禁される騎士たちと共に隔離施設に入り、安置された棺に毎日鎮魂の祈りを捧げた。

助祭は騎士たちに今回の罪を懇々と説きながら、看病するシスターを手伝った。


死罪にならないばかりか、まともに身動きすら出来ない重傷を数日で回復させてしまうほどの高価なポーションをティナから与えられ、適切な治療と看病までしてもらった。

食事も怪我に合わせて適切な物が与えられ、栄養価が高くおいしい上に、失った血を戻すためにと量も多い。

しかも回復するまで面倒を見てくれ、一か月で消える×マークのみで解放してくれるらしい。


普通国境侵犯の犯罪者など、死者は葬儀も無く遺棄されるのが当たり前。

それをわざわざ生き残りに応急処置をしてカリアゼス教式の葬儀に参列させ、犠牲者を弔って個別に棺に納め、仲間の手によって故郷に帰す算段まで付けてくれるのだ。葬儀参列後の本格的治療付きで。


生き残りの騎士たちは、仲間のために真摯な祈りを捧げてくれる顔見知りの助祭が諭す内容に衝撃を受けた。

『神敵とは他の神を信奉する者ではなく、神の名を使って他者を虐げる者』

神のために働くことを名誉とする聖堂騎士にとって、この言葉は致命傷に等しかった。


そして『悪いのは騎士に犯罪を命じる奴だ』と、自分たちを敵視しないシュタインベルクの兵たち。

騎士たちは自分が行った行為の愚かさに、ようやく気付いた。

そしてシュタインベルクの恩情に、深く感謝した。


×マーク以外の怪我から全員が回復した騎士たちは、棺桶や食料を満載した荷馬車三台と旅費を与えられ、装備まで返却されて関所から放逐された。

放逐と言いながら、助祭やシスター、兵たちの見送り付きだ。


見送るシュタインベルクの兵や助祭、シスターに深々と頭を下げる聖堂騎士たちを見た伯爵領の兵は、神のしもべを喧伝する聖堂騎士たちまで改心させてしまうシュタインベルクに畏れを抱いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る