宗教紛争?

※戦闘シーン、人死にあり


その出来事は、国境の関所で始まった。

現在シュタインベルクは隣領とシュタインベルク双方の許可を得た商人と付き人、特別な許可のある者しか出入り出来なくなっているが、その集団は、シュタインベルクの許可無く関所を通ろうとした。

バンハイム王国国教カリアゼス教中央教会を名乗る一団は、五十人もの武装した聖堂騎士団でシュタインベルクに押し入ろうとしたのだ。


シュタインベルク側の関所を守る兵士は当然入国を拒否したが、カリアゼス教の司教を名乗る男は『神の代行者である自分は異教徒シュタインベルク側の意向など聞く必要が無い』と、聖堂騎士団を前面に出して押し通ろうとした。

関所の鉄製落とし格子を騎士が壊し始めた時点で、関所の兵が国境の無断侵犯として攻撃する旨を通達しても、相手側は止まらなかった。


シュタインベルク側は、仕方なく戦闘に突入した。


関所は強固な石造りの砦になっており、シュタインベルクの兵たちは二階の矢狭間から弓で応戦したものの、兵数が違い過ぎて徐々に圧され始めた。


非番や待機合わせて関所の兵十二人に対して、相手側は五十人。しかも板金鎧を装着している。

いくらシュタインベルク側にレベルアップしている兵がいても、弓だけでは手数が足りない。


そんな時、関所屋上の胸壁から、三人の兵が敵のただ中に飛び降りた。

敵側の残りは三十人ほどいたので、戦力差は十倍だ。

弓矢だけで板金鎧の騎士を二十人も倒せただけで充分すごいが、飛び降りた三人はさらにすごかった。


三人の内左右の槍兵が総金属製の槍を振り回すと、状況が一変した。

一振りで槍に弾き飛ばされ、板金鎧をへこませて宙を舞う敵側の騎士たち。

敵側の弓兵は、自分たちの前衛が邪魔になって矢を射かけられない。

対してシュタインベルク側は、二階の矢狭間から敵の弓兵を狙える。

敵弓兵は、瞬く間に数を減らして行った。

そして三人のうちの真ん中の兵は、魔法で火球を飛ばして敵を殲滅していた。


後方で戦闘を見ていた司教は、形勢不利を悟って慌てて逃げ出そうとした。

だが、射掛けられた矢で胸を射抜かれ、国境となる橋の上で倒れた。


終わって見れば、戦闘はものの十五分ほどで、シュタインベルク側の完勝だ。

橋の反対側から遠巻きに様子を覗っていた伯爵領の兵は、五倍近い兵力差をものともしないシュタインベルクに恐怖した。

普段は気持ちがいいほど人の良いシュタインベルクの兵たちだが、戦闘になると鬼神のごとき強さを発揮するのかと。


事件の報を受けたクラウは、西部同盟の盟主当てに信書を送った。

事件の概要をしたためた上で、武力による国境侵犯のため、今後カリアゼス教関係者の入国は認めないと通達。

さらに西部同盟には、カリアゼス教が率いる戦闘集団の領内通過を拒否するように要請した。


信書を受け取った西部同盟の盟主は、大恩あるシュタインベルクに対してカリアゼス教が行った愚行に激怒した。

西部同盟の各領が無事に冬を超えられたのは、シュタインベルクの支援があってこそだったのだから。

妖精王国からの援助とは聞いていたが、実際に動いてくれたのはシュタインベルクだ。シュタインベルクに大恩を感じるのは当然だろう。


大量の食料や燃料だけでなく、罹患すればまともな治療法の無いはずの星の影響病、その特効薬まで全て無償で援助してくれた妖精王国とシュタインベルク。

西部同盟の各領主たちは、シュタインベルクが所属する妖精王国の食料生産力や技術力を、西部同盟全体よりもはるかに高いと見ていた。

そのために西部同盟で立国した後にクラリッサ嬢を王妃に迎え、融和策でその技術を取り込もうとまでしたのだ。


融和策は結果的には失敗したものの、援助された領民から敬愛されるシュタインベルクに敵対するなど、為政者としてはありえない愚行という認識だ。


西部同盟の領民はカリアゼス教を信奉している者がほとんどだったが、シュタインベルクの支援を受けて以降、その信仰に変化が出ている。

目に見えない妖精に感謝を捧げる領民が、急速に増えているのだ。


理由は単純。カリアゼス教は喜捨を募るばかりで、いざ領民が困窮した時には何も手助けをしてくれなかった。

星の影響病で亡くなった犠牲者の埋葬すら、伝染病の遺体だからと、普段より高額なお布施を要求したのだ。


対して妖精教を信仰しているシュタインベルクは、西部同盟の困窮に際していち早く無償で大量の支援を行ってくれた。

死病とまで言われた星の影響病の特効薬まで贈られ、重病人の命を無償で助けてもくれた。

支援を受けた領民は妖精教を信仰していないのに、金銭を全く受け取らずにだ。


そしてさらに、シュタインベルクから来た商人や援助物資輸送の兵士たちの人柄も、大きな理由になっていた。

街道で困った者を見ると、無償で手助けを申し出てくる人の良さ。

ある者はぬかるみに嵌って立ち往生している荷車を助けてもらい、またある者は、急な体調不良で苦しんでいる時にポーションを差し出された。


泥にまみれても『助けられてよかった』と笑う商人たち。

荷運び人に交じって、商人本人も足を汚しているのだ。

また、ポーション代など払えないと言うと『苦しんでいるのを見ていられないだけだから』と、拝むようにしてポーションを飲んでもらおうとする兵士。

そして目的地まで送ろうとまで提案してくれる。


助けられた者たちは不思議に思い、どうしてそこまでしてくれるのかと尋ねると、帰ってくる言葉は決まって『妖精様に見られても恥ずかしくないように』。

彼らの人柄を見れば、シュタインベルクがいかに良い場所なのかは、想像に難くない。


そして、そんな人柄の良い者たちが魔獣の襲撃から一瞬の閃光で守られているのを見れば、妖精の加護を実感してしまう。

西部同盟の領民たちは、遠からず全員が妖精教に宗旨替えしてしまうだろう。


西部同盟の各領主たちがそんな未来を予想しているところでの、カリアゼス教のシュタインベルクに対する愚行。怒り狂うのも当然だ。


西部同盟は宗教の自由選択を宣言し、カリアゼス教武力集団の入領拒絶をカリアゼス教中央教会に通達した。

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