新たな生命体

「…まあ、ミサイルや魚雷、ビーム兵器無いだけましか」

「はい。では、住民をお願いしますご領主様」

「領主かぁ…。この広さは確かに小領地クラスだよね。クラウも頑張って領主してるんだから私も責任持ってやる気ではいるけど、領民の勧誘と移送手段をどうするかだねぇ…」

「その件について要望があります。生体ドローンの作成許可をいただけませんか?」

「生体ドローン? そんなのあったっけ?」

「生体の欠損部位を再生する技術と人工臓器、ピコマシンと電子脳の融合技術になります。私が以前所属していた星系では製造禁止でしたが、今の私はティナのものです。したがってティナの許可があれば作れますよ」

「禁止理由は何だったの?」

「一時期は過酷な労働環境用に製造されていたのですが、損傷した場合の見た目が残酷だとの理由で製造禁止になりました」

「……機械が壊れるより、絵面がスプラッタだったから?」

「そのようです」

「……。電子脳って、自我は?」

「単なる命令処理脳ですので発生しようがありません。既存のドローンと同じです」

「……大きく損傷して活動が停止した場合、回収して直せる?」

「電子部品や人工臓器は破損していなければ再使用可能ですが、時間経過で細胞が死滅した生体部位はDNAからの培養による新規の身体になります。機能が停止してもピコマシンがある程度は細胞維持を担いますから、細胞壊死までは三週間ほど余裕がありますが」

「…アルはどうして生体ドローンが作りたいの?」

「現在ティナは子どもですので、交渉事などには年齢的外見がネックになっています。私が大人の生体ドローンを操れば、代理交渉が可能になります。例えば、劣悪な環境の孤児院から、裕福な成人として孤児を引き取ることも可能です」

「なるほど、そういう使い方か。…今まではどうして生体ドローンを提案しなかったの?」

「禁止事項だったために、私には生体ドローンの製造実績がありませんでした。アオラキの拠点で生物の四肢や臓器の培養実験をした結果、私の技術で生体ドローンの製造が可能と判断しました」

「四肢や臓器の培養実験? そんな話聞いてないよ?」

「乗務員の健康維持は私の仕事です。万一ティナが事故で四肢を欠損したり臓器移植が必要な場合に備えるのは当たり前ですよ」

「健康維持って、そこまでしちゃうんだ…」

「当然です。健康な状態を維持するのですから」

「あ、うん、分かった。…生体ドローン、他の用途には使わない?」

「この領の運営のためには、機密を守れる多くの人材が必要です。領主家の家人としても運用すべきですね」

「何体も作る気なの?」

「ティナの執事やメイド、コックなども作りたいです。騎士団も欲しいですね」

「それはやめて! たぶん私は生体ドローンを人として見ちゃうから、操ってるアルが何人もいるように思えちゃうよ! アルのメイドさんなんて、考えただけでも嫌だよ!!」

「なんですかそれは。私にメイドの仕事がこなせないとでも?」

「ちがーう! 私はアルを保護者の成人男性みたいにも思ってるの。だから私の中の、アルのイメージを壊さないで!」

「むぅ、必要なのに…。わがままですね」

「絶対いやーっ!!」


ティナはこの後も、アルが操る生体ドローンの複数体製造に対し、激しく抵抗した。

しかし孤児の保護には、成人男性がいればティナがやるよりはるかにスムーズに行くことは当然だし、保護した子どもの面倒を見るのも金属ボディのドローンではまずい。

しかもお城や領政を運営して行くには、どうしても多くの人員が必要になると、アルに懇々と諭されたティナ。


自分でも人員の必要性は理解していたため、ティナは『容姿性別の違う複数のアル』を回避する方向にシフトした。

大議論の末、アル専用にリモートの成人男性生体ドローンを一体。

執事長、メイド長、使用人、騎士団長、騎士の各ドローンは、五原則を設定した上で、感情学習機能や自由意思構築機能付きAIを搭載することで決着がついた。


五原則は

1.ティナに害が及ぶ行動をとらない。

2.犯罪行為を犯さない。

3.アルの技術情報を漏洩しない。

4.出来る限り自身の損傷を防ぐ。

5.アルの命令には、可能な限り服従する。

といった内容だ。


だが、ティナは結論を出した後も悩んでいた。

生体で出来た人型の、感情や自由意思を持つドローン。

それはもう、ほとんど人間ではないだろうか。


ティナの心情的希望を優先した結果、単なる生体ドローンよりも、倫理的にヤバい計画になっている。

今回の決定がもたらす未来が間違った方向に行ったらと、ティナは不安を拭いきれなかった。


だが一方で、たとえ生体を持っていても、感情の無いロボットのようなドローンに子育てを任せては、子どもの情操教育的に危険な気がする。

人を雇えればいいのだが、アルの技術漏洩を防止するなら、この都市の運営に一般人は使わない方が安全だ。


そうなると運営陣の生体ドローンと住民が接触することになるので、感情の無いドローンでは住民の感情を汲むことが出来ないし、不気味な運営陣に見えるだろう。


かといってすべてのドローンをアルに直接操作させると、見た目や性別の違う、何人ものアルが存在するように感じてしまう。

だがティナにとっては、アルは一個の個人であって欲しい。


ティナは答えの出ない難問に、漠然とした不安を抱えながら悩み続けることになった。


余談だが、領地の名はホーエンツォレルン領、町の名はハルシュタット、城はホーエンツォレルン城と、まんまパクリで命名された。

家紋は一対の広げられた鳥の翼。翼だけで、本体は描かれていない。

これは、妖精のシンボル的な羽根と空をゆくダーナを暗喩した、ティナのオリジナルだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る