私の町、私のお城

ティナとアルは、カルデラ盆地での新都市建造に邁進していた。


ドローンによる事前調査の段階で、噴火の可能性がほぼ無いことや、湖の水が溶岩洞によってカルデラ外部に流れ出ていることが分かっていた。


未工事の時点では、カルデラ内側は楕円形で、森に囲まれた湖二つと中央火口丘が信号機みたいに並んでいたが、排水路のような溶岩洞に水門を設ければ、湖は一つに合体しそうだった。


つまり湖の水位が上がれば大きな一つの湖になり、中央火口丘が瞳のように湖中央の島になる。

その島に都市を建造すればアクセスは水上と空中しか無くなるため、湖自体が堀代わりになって防衛力が飛躍的に上がるのだ。

今の各国の技術水準では空など飛べないし、たとえ熱気球とかが発明されても、小型ドローンのレーザーだけで片が付く。

ミサイルや高高度爆撃機でも発明されない限り、防御力は充分だ。


アルが作った湖の水位上昇シュミレーションを見たティナは、中央島の都市イメージを妄想した。

中央火口丘の丘頂にはホーエンツォレルン城的な城を。

丘裾にはハルシュタットのような街並みを円周状に配置。

そして湖外周からカルデラ壁までは、イギリスの湖水地方のような景観を望んだ。


ティナのイメージを元にアルが計算したところ、島になる中央火口丘だけで、景観を重視した状態でも人口一万五千人ほどの都市になった。

もう完全に避難所や保護施設などという規模ではないが、歯止めの無いコンビは気にも留めなかった。

完成予想イメージを見たティナなど、完璧に舞い上がって歓喜の舞を踊っていたのだから。

その様子を見たアルも、全力で都市建設を始めた。


アルは水路になっていた溶岩洞を水門化して水位を上昇させつつ、火口丘の想定水位の上にハルシュタット風の街並みを建設。

同時に丘上に、城の建築も始めた。


ただ、建材に使われたのが、アオラキの地下掘削で出た大量の花崗岩。

当然城も街並みも、かなり白い外壁になる。

堆積岩を使った方がヨーロッパの街並みっぽいのだが、堆積岩は城塞都市の建設にかなり使っていたため、建材を統一しようとすると花崗岩しか都市全体を賄える手持ちが無かったのだ。

花崗岩は風化しやすいために、アルは透明な劣化防止剤を塗布しながら建設していた。


建設には孤島工事用に増産していた大型・中型ドローンが全機導入されただけでなく、どうせ都市が出来上がったら警備にも使うのだからと、どんどんドローンを増産して逐次投入していた。


重水素発電機はアオラキで製造して工事開始当初に仮設置し、湖面にソーラーパネルを浮かべて水素を製造。電力は潤沢だ。

おかげで工事は、新都拡張時のペースをはるかに上回っていた。


アルは増産されたドローンを遺憾なく活用し、中央火口丘内部まで階層化してしまった。

内部には孤島の基地化で計画されていた地中ドック、それ以外にも掘削基地や地下畑、電子部品製造ライン、ドローン製造ライン、備蓄倉庫、発電施設、食品加工施設などを、一切のためらい無く建造した。


ティナは地上部隊の侵攻を警戒して孤島を基地化することを選択したが、アルはこの場所も守る気満々で自身の技術を投入した。

完成予想イメージを見たティナの喜びように、万一この場所が失われた場合のティナの精神的ダメージを回避するため、中央火口丘内部を基地化して強力な防衛体制を敷こうとしていた。


ティナには『強い防衛力が無ければ、ティナが助けたい子どもたちの命が守れない』と説得して、半ば無理やり基地化許可を貰ったのだ。

ただし内部の基地は完全独立設計で、侵入するには宇宙船の隔壁並みに硬化処理した分厚い内壁を突破しなければならない。


しかも最下層中央に移設された大型重水素発電機には、自爆機能代わりの最終暴走モードまで搭載された。

このモードが動作すると発電機が自壊して膨大な熱エネルギーを撒き散らすため、基地内の設備は全て溶融してしまう。


そして内圧が急上昇した火口丘は、他所より薄く作られた基地上部の天井を突き抜け、まるで火山の噴火のように丘上の城をも溶融させる。

アルの未来技術は、なんとしてでも流出させない構えだ。


一方ティナはというと、都市建設はアルに任せ、カルデラ外の魔獣を狩っていた。

工事の振動や音で魔獣がカルデラ内に寄って来たり、逆に森の外縁部に逃げ出してスタンピードにならないようにと、せっせと魔獣を討伐していた。


カルデラ内の森にはほとんど魔獣がいなかったが、カルデラ外周には死与虎クラスの魔獣も数多く生息していた。

しかも外周は100km以上。

さらに、討伐を逃れた魔獣が森の外に向かわないよう、森の外縁部の魔獣まで間引き討伐していた。


結果、ティナは何度もレベルアップしたために、また魔力制御に苦しむことになった。


毎日午前中は狩りに出て、午後は細かな魔力制御訓練にと、伐採した木々で家具作り。

そして夜は、アルが中央火口丘中腹に移築してくれた自宅で休む。

そんな毎日を繰り返し、季節は初夏を迎えた。


「ティナ、カルデラ都市建設、完了しました」

「うん、出来ちゃったよね、私の町。自分の目で見ると、完成予想イメージより数段いい出来だよ。アル、本当にありがとう」

「気に入ってもらえてよかったです」

「アルに言われて内部に謎技術まで使っちゃったけど、アルの進言聞いといてよかったよ。ここは絶対手放したくないから」

「万一の備えですが、防衛力には全く問題無いでしょう。魔の森を100km以上行軍し、さらに高さ500mほどのカルデラ壁を越え、最後に水中からドローンで攻撃される1kmもの湖を渡って来ても、最終的には噴火のように火砕流が発生しますからね」

「……改めて聞くと、とんでもない過剰防衛設備に思えてきた。住民の避難施設は大丈夫なんだよね?」

「はい。各住居地下には、地下通路で繋がったシェルター代わりの地下室が作ってあります。消費財の備蓄製造はこれからですが、最終的には二万人が一年間暮らせるだけの備蓄を搬入予定です」

「安心度が天元突破してるなぁ…」

「ティナが保護する子どもたちを守るのですから、これくらいはしませんとね」

「…まあ、ミサイルや魚雷、ビーム兵器無いだけましか」

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