自分の町を作ろう

「では、そう伝えておきます。それと、遅くなりましたが、スタンピードを起こしたナンセ村南の森の観察データが、ほぼ出そろいました」

「ああ、魔素異常の経時観察してたんだっけ?」

「はい。ナンセ村近くの異常魔素濃度は平均値に落ち着いたままですが、あの森では、各所で魔素の濃度異常がたびたび起きてます」

「え゛、スタンピードは?」

「ナンセ村のスタンピード後にも二回起きましたが、あの森は広大でシュタインベルク領には波及しない場所でした。それ以外にも、スタンピードにならない程度の魔素濃度上昇は、七回観測されました」

「…他の魔の森と比較してどうなの?」

「濃度上昇回数は三倍から五倍です。平均魔素濃度も、他の魔の森より34%高いですね」

「…伐採した方がいい?」

「ナンセ村近くは伐採した方が、魔獣化する動物の住処が無くなるのでいいでしょう。ですが森全体は、面積が広すぎて不可能ですね」

「どのくらい広いの?」

「東西370km南北480kmほどで、現在のシュタインベルク領の、五割増しで広いですね」

「おぅ、広すぎるね。ドローン投入しても、何年もかかっちゃうな」

「しかも森が無くなると、森の南の他国と接してしまいます」

「防衛的にも森はあった方がいいけど、スタンピードが頻繁に起こるんじゃなぁ…。クラウには浅い部分だけ伐採してもらって、森奥はドローンで魔獣討伐するかな」

「討伐範囲が広範囲なので大型充電用基地が必要ですし、ドローンも大型が二十機ほど必要になります」

「そんなに魔獣多いの?」

「魔素異常で魔獣が増えますから、二十機フル稼働でも殲滅は無理でしょう」

「そうだった、増えるんだ。しかも大型二十機フル稼働なんて、結構な電力になりそう…」

「余裕を見て、アオラキに近い発電量が必要です」

「大型ドローンも足りないよね?」

「現在孤島の工事用にドローンは増産していますが、そちらを使いますか?」

「ああ、それはありかも。孤島の工事は急ぐ必要無いから、その分流用しちゃおう」

「了解です。基地候補ですが、森の中心部近くに、このような直径30kmほどのカルデラ盆地があります」


ティナの視界に、カルデラ盆地の全景がレイヤーされた。


「お、阿蘇カルデラみたいに広くて、中央火口丘まであるね。カルデラ内に生えてる木が森になってるから、かなりの年月噴火してないね」

「太さからの概算ですが、樹齢千年近くありそうです。ドローンの簡易調査でも、再噴火の兆候は観測されていません」

「カルデラ壁で中が見られないから、ちょうどいいかも」

「ソーラーパネルも増産してますが、孤島の電力事情が不足気味なのでそちらに使いたいです。ここには重水素発電設備を設置しましょう。取水用の湖もありますし」

「そだね。水から水素作って水位下がっても、カルデラだから雨降ったら戻るよね。でも、一応発電設備は、中央火口丘内部に作ろうか」

「了解です。クラウには充電基地のことも話しますか?」

「いや、ドローンの詳しい説明してないし、単なる充電基地なんだから話す必要ないでしょ?」

「いっそのこと、ここに都市を作っちゃいませんか?」

「ふぁ!? なんで?」

「現在シュタインベルクはクラウたちが頑張って治めています。ティナや私は緊急時以外関わらないつもりですよね? ティナは新都の体制構築時、すごく楽しそうでした。ですから、ティナが治める都市があってもいいのでは?」

「うん。色々作ったり工夫するの、すごく楽しかった。でもさ、魔の森に都市なんか作ったら、魔素異常で住民が魔獣化したりしない?」

「観測データからすると、魔素異常は特定のライン上でしか起こらないようです。この場所は、そのラインから外れています。しかも、人間が魔素異常の場にいても、低レベルの人がかろうじてひとつレベルが上がる程度です。実例は一例しか観測出来ていませんが、その場にいた八人とも、魔獣化などはしていません」

「へぇ、濃い魔素のラインか。まるで龍脈だね。その龍脈上でも人は魔獣化しないんだ。…でも平時の魔素濃度自体が高いんでしょ? 家畜飼ってたら魔獣化しない?」

「これも観測で得られたデータですが、動物の魔獣化には、最低でもシュタインベルク領の平均魔素濃度の三十倍は必要です。しかも魔素は空気より重く、地表付近を漂います。したがって、カルデラ壁を越えられる魔素はごく僅かで、カルデラ内の平均魔素濃度は、シュタインベルク領のそれと比べても、18%ほど濃いだけです。これでは魔獣化は起こりようがありません」

「ああ、その程度の魔素濃度なんだ。…あれ? だったら死与虎とかがあれほど魔素で強化されてるのはおかしくない?」

「同じ魔獣でも魔核の魔素濃度にかなり差異がありますから、魔獣は他者を食らうことでレベルアップを積み重ねているのでは? レベル1の死与虎など、少し強いだけの虎と認識されているのでしょう」

「なるほど、死与虎はレベルアップ繰り返した高レベルの虎の魔獣なのか。まあ住んでも安全そうなのは分かったけど、たとえ都市作っても住民いないじゃん」

「ティナ。難民発生やインフルエンザ蔓延の時、平気そうな顔してるのに精神的負荷が上がってましたよね?」

「……アルには隠しても無駄か。そうだね。大人は自分で判断して行動出来るけど、子どもは巻き込まれただけだから可哀そうなんだよ」

「やはりですか。もし、飢饉や戦争に巻き込まれて死にそうな子どもがいれば、保護出来る場所があった方がいいでしょう? 孤児院の移住のように、全員を受け入れられますし」

「………その時になってどんな判断するか分かんないけど、保護した場合に備えて都市を作っておこうってこと?」

「そうです。保護してから建設を始めていては、間に合いませんからね。それに、万一シュタインベルクが攻められたら、避難所にもなりますし」

「移動大変じゃん!」

「それでも逃げ場が無いよりはいいでしょう。魔の森の移動は、ドローンで警備しますし」

「それはそうだけど……。なんか結構プッシュしてくるね?」

「ばれましたか。実は、この星の文化レベルに合った都市でありながら、工夫を凝らしてどこまで快適にできるのか。ちょっと試してみたいんです」

「ああ、アルが作りたいのか。そういうことなら作っちゃおう。魔の森の中だから誰にも迷惑かけないし、なにより楽しそう」

「そうですよね。楽しみです」


突然降って湧いた新都市建造計画。

ティナとアル双方が乗り気になったため、ストッパー役はどこにもいない。


しかもスタンピードを起こさせないという口実があるため、孤島の基地化より優先順位が高い。


さらにアオラキの拠点から400kmほどしか離れていないため、ダーナによる夜間の物資輸送も頻繁に行える。

二人は、都市建造に没頭した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る