インフル沈静化

星の影響病は、その後半月ほどで急速に収束し始めた。

栄養価の高い食事、潤沢な暖房燃料、受け入れられた感染予防対策、そして特効薬。

四点の相乗効果で、西部同盟の各領の感染者は急減して行った。


特効薬の注意書きに、有効期限が半年で今回の星の影響病専用と記載されていたことも、重症者への積極的な投与に繋がった結果だろう。


一方シュタインベルク領では、今のところ感染者は出ていない。

正確には感染者の入国はあったのだが、隔離施設での隠ぺい特効薬投与で事なきを得ていた。

関所の兵士と隔離施設の職員全員が、特効薬を服用済みだった事も、この結果に繋がっている。


そしてシュタインベルク領は、一人の感染者も出すことなく春を迎えた。


「クラリッサ様。西部同盟の各領主家より、食料と燃料の無償支援、星の影響病の特効薬供与に対する謝礼を持った使者が隔離所に入っております」

「あら、では星の影響病は沈静化したのね。よかったわ」

「そうですな。ただ、少々厄介なことになるやもしれません。隔離所の職員からの報告では、その使者は我が領内の待遇や妖精王国との関係を根掘り葉掘り聞いて来るそうです」

「……単なる興味、ではありませんよね」

「可能性としては、妖精王国所属への仲介依頼かと。今回の支援の件で、アル殿の能力を見せすぎましたな」

「仲介は無理よね。妖精王国への所属は、領主と妖精王陛下との個人的友誼によるものですから。アルさんのお力も、今回のシュタインベルク領の危機に際して仕方なく振るわれたものですから、決して他領にお力添えいただけるものではありませんわ」

「仰せの通りにございますな。では、使者が参りましたらその方向でお話しください」


システィーナ御所でごろごろしていたティナは、アルからこの会話の報告を受けた。


「さすがクラウ、よく分かってるわね」

「では、妖精王国への所属に関しては、クラウの方針通りで良いと伝えておきます」

「あ、ついでに言っておいて。シュタインベルクへの移民が来る可能性あるから、シュタインベルクとしての対応を考えておいた方がいいって」

「移民ですか?」

「今回シュタインベルクは、星の影響病の感染者を出してない。このことは商人から他領に伝わってるはず。しかも食料、燃料、特効薬が妖精王国から支給されたことも知ってるから、仲介したシュタインベルクに移住したいと考える住民が多いと思うよ」

「では、かなりの移住希望者が押し寄せるのですね?」

「いいえ。移住は移住元の領主と移住先の領主の許可が必要なの。移住元の領主は労働人口減るの困るから、そう簡単には許可は出さないでしょうね。ただ、間者っぽいのを紛れ込ませる可能性はあるの」

「なるほど、了解しました」

「でも移民が来るのは私たちが力を見せちゃったせいだから、クラウの決定に従って協力はするよ」

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