欲を掻くとこうなる

検疫が始まっておよそひと月、西部同盟内で流行していた星の影響病は、一部都市を除いて沈静化し始めていた。

各領主家は、シュタインベルクからもたらされた特効薬で統治機能を維持。

ティナの書いたビラを要所要所に張り出したことで、住民たちが予想以上に感染予防法を徹底したため、感染爆発も抑えられた。


住民が予想以上に感染予防に取り組んだ背景には、ティナのビラに妖精マークが描かれていたからだ。

字の読めぬ住人達にも分かりやすい漫画入りの内容であり、迷信深い住民たちは、感染予防を行うことで妖精の加護を祈ったのだ。


だが、とある領主家はティナのビラを無視した。

結果、その領主家は特効薬で感染しなかったものの、住民たちに病が蔓延し、おびただしい死者を出した。

住民のおよそ五分の一が死亡する異常事態となり、全く罹患者の出なかった領主家に対して、住民の不信感が爆発した。


そして領主家は、家族を失った大勢の者たちに襲われて、全員が死亡した。

襲撃者の中には多数の兵士たちも混じっており、本来領主家を守るはずの兵士たちの手によって領主家は滅んだのだ。


「みなさん、感染爆発が起きた例の領、原因が分かりました。領主が重症者用の特効薬を重症者に使わず、賄賂を贈った健常者たちに高額で売り捌いていました」

「はあ!? 馬鹿じゃないの!? そんなことしたら感染拡大や死者数が抑えられないじゃない!」

「ええ。ティナのビラも、手付かずで残ってました」

「そんなことしたら領主に媚び売る者だけが生き残って住民に感染者が増えるから、住民に疑われて当然じゃない! 家族を失った人が領主家に疑い持ったら、感情的に歯止めなんて掛からないわよ!」

「なんとむごいことを…。滅んで当然ですな」

「アルさんが重症者のためにと用意してくださった薬をそのように使うなんて…。領主の資格どころか、人としての資質を疑いますわ」

「馬鹿な領主を持ったせいで、大勢の住民が死ななきゃいけないなんて……理不尽すぎるよ」

「現在、隣接する領三家が共同で支援に乗り出そうとしています」

「ティナ、アルさん。出来ればその三家に追加で支援物資を送りたいのですが、ご協力はいただけますか?」

「アル、お願いしていい?」

「当然です。食糧や物資はすぐに用意しますが、特効薬はクラウの管理です。どうしますか?」

「幸いなことに、今のところシュタインベルクは感染者が出ていません。感染爆発対応用のストックの半数を、三家に支援します。アルノルト、至急準備を」

「承知致しました」

「支援に向かう人たちの多くは特効薬未服用だと思う。クラウ、アルに届けてもらってもいい?」

「支援物資も次回の定期便用の物を流用してここで準備します。アルさん、配達と補充をお願いします」

「はい。お任せを」


大慌てで用意された物資を大型ドローンで三家の庭に届けたアルは、クラウに映像での領主会談を願った。

驚いたのは三家の領主たち。

クラウの映像だけでなく、問題の領に隣接する他二家と西部同盟盟主である侯爵の映像も映し出された会談で、三家への緊急支援と、今後の支援物資増量を話し合った。


三家には当然領地獲得の思惑もあったが、シュタインベルクに全面支援されると領地割譲の分配も話し合わなければならない。

だが、シュタインベルクは無報酬での支援を約束した。


250km前後離れたシュタインベルクから同時に三か所に物資を送り、三家と侯爵家、クラウが一か所にいるように話し合える。

しかも内容は、見返り不要の無償援助だ。

そして驚くことに、シュタインベルクが領民の感染対策にと持っていた特効薬を譲ってくれるというのだ。


侯爵家は映像会議を何度か経験済みなので衝撃は少なかったが、三家はシュタインベルクの底知れぬ技術力と物資量、そして自領のための特効薬まで放出する義侠心に、ただただ驚くしかなかった。

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