孤児院関係者、全員到着
季節はやがて冬に入り、西部地域にも雪が舞い始めた。
だが、シュタインベルクの難民キャンプには、三百人ほどの難民しか来ていない。
国外であること、住居が洞窟であること、何がしか働かなければ食料がもらえないことなどの受け入れ条件がネックになり、大勢の難民が押し寄せることはなかったのである。
これは、シュタインベルクが西部地域に援助物資を送り続けた策が功を奏したともいえる。
わざわざ国外に行かなくても、西部地域で無料の食料配布が受けられる上に、守ってくれる兵の数も多い。
しかも仮設の共同生活ではあるが、木造の住居もあるし暖房用の燃料まで配布される。
わざわざ異国の地の洞窟に、働いて食料を得ながら住む必要は無いからだ。
業務量がほぼ平常に戻ったシュタインベルク家と違い、西部地域の領主家は仕事に忙殺されていた。
食料と燃料はシュタインベルクからの援助で何とかなっているが、増えた兵の管理、難民への支援と管理、バンハイム王家の動向調査、ランダン王国の動向調査、逃げて来た他領領主家の受け入れ、西部地域での団結交渉、武器の購入代金と兵への給金支払いなどなど、仕事量は倍増だ。
しかも食料と燃料の支援は半年を目途にとシュタインベルクから言われているため、難民に新たな農地を開墾させねば来年後半は食料不足で暴動が起きかねないし、領の収入が増えねば財政が破綻する。
かと言って、これ以上シュタインベルクに援助を求めるわけにもいかない。
無償で援助してもらっている食料とコークスも、半年分ともなればとんでもない負担のはずだ。
実際に物資を用意してくれているのは妖精王国らしいが、支援の窓口となって物資を運んでくれているのはシュタインベルクだ。
しかも援助物資の中には小麦粉や野菜もあり、これらはおそらくシュタインベルクからの持ち出しであろう。
西部地域の各領主家は、妖精王国を説得して援助をしてくれているはずのシュタインベルクに、これ以上の負担を強いるなど出来ようはずもないと考えていた。
西部地域各領主家の奮闘は、これからも続いていく。
【ティナ、バンハイム王都の孤児院関係者総勢二十四名、無事に到着しました】
「おー、よかった。これから本格的に寒くなるから、心配してたんだよ」
【小さな子に冬場の旅は堪えますからね】
「報告無かったけど、襲撃は大丈夫だったの?」
【それが、一度もありませんでした。小さな子が多かったので荷馬車で移動して来たのですが、どうやら難民集団と誤認されたようで、盗賊の潜む森近くを通った時でさえ、襲撃されませんでした】
「そっかぁ。荷物も少なくて子どもが多い集団じゃ、難民に見えても仕方ないか。なんにせよ、無事に着いてくれて良かったよ」
【カリアゼス教の助祭やシスターまで移住して来ていますが、よかったのですか?】
「孤児たちを放っておけないからって一緒に移住を決意する人たちだから、人柄的には全く問題無いよね。それに、シュタインベルクの住民も元々はカリアゼス教だったんだから、カリアゼス教の祭祀を知ってる人がいた方がいいしね」
【なるほど、了解です。それと、シュタインベルク家運営陣の負担を軽減する策は、見事に嵌りましたね】
「その話はしないで! クラウたちが大変になりそうだったから西部地域の各領主家に仕事が分散されるように仕向けたけど、各領主家に悪いなとは思ってるから!」
【おや? 他国の問題だからその国がやるべきと言っていましたよね?】
「言ったよ。言ったけど、前世で残業地獄を経験した身としては、罪悪感がひどい!」
【自国の難民を自国内でどうにかするのは当たり前ですよ。他国であるシュタインベルク家に対応させるなど、虫が良すぎます】
「そうなんだけど、その通りなんだけど、何でか可哀そうに思えるの!」
【ああなるほど、これが同病相憐れむですか。実演ありがとうございます。ことわざとは、興味深いものですね】
「……ヨカッタデスネ」
【発音が変ですよ? 感情が籠っていません】
「黙秘権を行使します」
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