全員来てもらおう

西部地域への援助が始まってからしばらくしたころ、アルはアルノルトから相談を受けた。


「アル殿、いらっしゃるか?」

「はい、聞こえていますよ。どうしました?」

「実はアル殿にお願いがございます。妖精教会の二人から相談を受けたのですが、バンハイム王都との手紙のやり取りが、今回の騒乱で出来なくなっているようです」

「そうですね。手紙のやり取りは商人頼りですから、今の状況だとバンハイム王都まで行く商人はいないでしょうね。王都の孤児院の状況が知りたいのでしょうか?」

「状況を知れるだけでもありがたいのですが、二人は王都の孤児院を助けに行きたいと申しておりまして、対応に困っております」

「手紙のやり取りが出来ないのに、王都の孤児院が困っていると?」

「いつも手紙の配達を頼んでいる商人から、王都から食料を徴収する軍が派遣されたと聞いたようで、王都ではそれほど食べ物に困っているのかと心配しておるのです」

「王族が贅沢をするためなので、見当はずれな予測なはずなのですが…。ティナの予想では今後バンハイム王都の食料事情が急速に悪化するようですから、あながち間違いではないことになりますね」

「そうなるでしょうなぁ…。それで、二人が貯めた給金で乾燥食料を購入したいと頼み込まれておりまして、ほとほと返事に困っております」

「乾燥食料を譲るのはクラウやアルノルトの裁量で構いませんが、それを持って二人でバンハイム王都まで行く気ですか?」

「二人の決意は固いようで、こちらとしては途中までは援助物資の輸送隊に同行させられますが、その先は二人だけになります。若い二人が、食料が困窮しはじめている地域に大量の食料を持って行くとなると、襲われるのが目に見えております。クラリッサ様は、二人の身を案じて許可を出すのを迷っておられます」

「確かに襲われる可能性が高いですね。他国での活動になるので、シュタインベルクとして動けるのは、援助物資の輸送隊に終着点の侯爵領まで同行させるということですね」

「誠に勝手ながら、さようにございます」

「妖精王国として警護を付けることは可能ですが、ティナの承認が必要ですね。分かりました。ティナに相談してみます」

「虫の良いお願いとは理解しておりますが、よろしくお願いいたします」

「ティナならおそらく、アルノルトから相談されなかった場合に拗ねますよ。結論はティナ次第になりますが、アルノルトの配慮に感謝します」

「お願いをしておるのはこちらですが、アル殿の感謝は受け取りましたぞ」

「では、またのちほど」


【ティナ、聞いていましたか?】

「拗ねる……うん、確かに拗ねそうだな。アルノルトさん、やるね」

【クラウが心配するのだから、ティナも心配するだろうと考えたのでしょうか。ああいった機微を見る能力は、見習うべきものがありますね。それで、どうしますか?】

「妖精王国として妖精を警護に付けるのはいいんだけど、見た目は大荷物背負った若い二人旅にしか見えないから、襲撃や荷物の強奪の可能性は減らないよね。不思議な力で賊を撃退すれば、二人が妖精に守られてるってバレちゃうから、下手すると孤児院の子どもたちまで人質に狙われないかな?」

【ありそうですね。特に荷物の強奪などは街中でも起こりそうですから、ドローンで撃退すれば二人が妖精の加護を持っていると他者に露見するでしょう。本人が妖精に守られているとなれば、人質を取ってでも言うことを聞かせようとしますか】

「だよねぇ…。バンハイム王都までの治安はどう?」

【悪化しています。難民や逃げ散った徴収軍の一部が盗賊化して、王都周辺で商隊を襲っています】

「それじゃあ商隊出して同行させる手もダメね。商隊を襲える人数の盗賊をドローンで撃退したら、確実に大事になっちゃう。う~ん困った……。あ、いっそのこと、みんなシュタインベルクに呼んじゃうか?」

【孤児院関係者全員の移住意思確認とクラウの承諾が必要になりますし、移動途中の盗賊の危険はどうします?】

「クラウに相談はするけど、受け入れは大丈夫そうな気がする。移動の危険は商隊ほど高くは無いだろうし、ドローンでお金を送って護衛を雇えば、なんとかならないかな?」

【盗賊の被害は大荷物を持った商隊に集中していますし、街道での子どもの誘拐などはなさそうなので、行けそうですね。そうなると移住意思の確認とクラウの許可ですね】

「よし。クラウに話に行こう」


クラウに話したらあっさりと移住許可と旅費や護衛費用にとバンハイムのお金が貰えたので、妖精教会の二人に孤児院移住の話を持ち掛けた。


二人は領都シュタインベルクの環境が王都の孤児院とは比べ物にならないほど良いことを理解していたので、クラウが移住許可とお金を出してくれたことに、涙を流して喜んだ。


よくよく話を聞いてみると、すでにある程度孤児を受け入れてもらっているので、これ以上無理は言えないと考えていたそうだ。

しかも自分たちの勝手でバンハイム王都に行くのだから、帰って来られないことも覚悟して、こちらで共同生活をしている子どもたちに、妖精教会の仕事を任せる算段だったらしい。

この二人、覚悟が決まり過ぎではないだろうか?


涙まみれでティナに土下座する二人をなだめ、移住の意思を確認する手紙を書いてもらった。

直筆の方が良いだろうと、文字はティナが監修して。

ティナは手紙とお金を届けるついでにと、旅路警護の中型ドローンを二機、バンハイム王都に送った。


しかしこの二人、次にクラウに会ったら、絶対土下座感謝を捧げるだろう。

ティナは『クラウ、大変そうだな』とつぶやいた。

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