支援
「いや、クラウはクラウなんだから、私と同じ考えになる必要無いと思うよ。それより、対処を考えようよ」
「そうですわね。バンハイムが倒れる可能性も考慮すると、バンハイム西部地域が結束して事に当たるのが一番でしょうが、他国であるシュタインベルクは口出し出来ませんよね」
「う~ん…。『王都から東はランダン王国の侵略抑える戦力無いから、西部で団結して領地守るなら食糧支援するよ』とかどう?」
「なるほど。こちらから見れば団結して盾になってもらう代わりに食糧を支援するわけですな」
「実際には、西部地域で難民受け入れてもらって、戦力増強して欲しいんだけどね」
「その場合、難民はこちらでも受け入れますの?」
「戦えない人たちは受け入れるけど、難民は伯爵領に留まる人が多いんじゃないかな。西部地域である程度の武力が揃った上で食料配布してもらえるなら、わざわざ他国であるシュタインベルクにまで逃げる必要無いから」
「そうなると、早急に再度の食糧支援部隊を出すべきですね」
「あ、できたら侯爵領領都にもがっぽり出してあげて欲しい。動けない食中毒患者と、逃げ散った兵士用に」
「そうですな。他国の兵とはいえ、さすがにあの状況は見るに堪えませんからな。ここはアル殿の支援食料に頼らせてくだされ」
「そうですわね。頼らせていただきましょう。でもティナ、逃げ散った兵士用とはどういうことですの?」
「一旦は逃げ散ったけど、王都に帰り着くまでの食料なんて無いから、餓死するくらいならと捕虜になりに来ると思うよ」
「…たくさん出す意味はなぜですの?」
「潤沢でおいしい食料与えて居付いてもらうの。ひどい指揮と傷んだ食糧でこき使うバンハイム中央と、敵側なのにおいしい食べ物与えてくれる西部同盟。どっちで働きたい?」
「「…」」
「ティナ、支援する食料は通常の物ですか?」
「お湯で戻せる乾燥食料。しばらくは野営になるから、手軽に食べられておいしいのがいいよね。日持ちもするから保存や補充が楽だし」
「了解です。すぐに用意しますが、集積はどこへ?」
「領境の平原がいい。あそこまで運んでおけば、輸送する兵士さんも楽出来るから」
「了解です。二時間以内に集積を完了させます」
「なっ!? 二時間では兵の準備が間に合いませんぞ!?」
「じゃあ避難所準備してる兵士さん使えば? まだ受け入れ始めてないから、動かしても問題無いよ」
「……アルさん、避難所の兵を纏めている者に繋いでいただけますか?」
「了解です。一分お待ちを」
「「……」」
領主館から避難所までは、早馬を順次乗り継げたとしても六時間はかかる。それを一分で連絡を可能にするアル。
数千人規模の食糧支援物資を用意して領境の平原に運ぶなど、いかに早くても三日はかかる。それを二時間でこなすアル。
そして何より、早馬でも二日はかかる距離の侯爵領領都の出来事を、ほとんどリアルタイムで知ることができた。
クラウとアルノルトは、アルの非常識な力に、驚きを通り越してあきれてしまった。
アルによって用意された食料は、なんと三日半で侯爵領の領都に到着した。
普通は町や村に泊りながらの移動になるので、到着に六日はかかる。
だが輸送を担当した兵たちは、日のあるうちに進めるだけ進み、暗くなった場所で野宿。
そしてまだ夜が明けきらぬうちから出発し、日中の休憩も無い。
兵たちはクラウから『愚かな指揮官のせいで食中毒で死にかけているバンハイムの兵を助けるために』と言われたことで、俄然使命感に燃えていた。
輸送を担当した兵の多くは、城塞都市攻略遠征の悪夢を経験していたからだ。
そしてこの無茶な移動を可能にしたのが、妖精のサポート。
商隊などが荷を運ぶ場合、魔獣や野生動物、野盗などを警戒して村や町に泊まる。
仕方なく野営する場合でも、夜間複数の見張りが不可欠だ。
だが、妖精がサポートに付くと言われれば、夜間の見張りは必要ない。
たとえ全員で寝ても、安全は確保されているからだ。
しかも五台の荷車に山積みされた食料は、みな乾燥食料。
見た目は荷車が壊れるほどの山積みなのに、馬は楽々と引いていく。
すれ違う商人たちは、惚けた顔で荷馬車を見ていた。
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