瓦解
こうして、バンハイム内戦への対処に、ティナとアルの戦力投入が決定した。
アルは旧艦修理用のドローンたちを食糧生産と洞窟住居建造、国境警備に回し、難民キャンプ用の管理ソフトを組んだ。
そして旧艦のコアの抜けたAIルームに新造のコアを入れ、孤島基地化工事の遠隔管理を任せた。
新造艦の運航開始で休止予定だった電子部品の製造ラインで孤島用の部品を作り始め、孤島で使うための部品製造や組み立てラインも増設を始めた。
さらにドローンも量産体制に入り、アオラギの拠点は完全フル稼働状態である。
ティナは難民キャンプの設営指揮に入り、領兵に難民を管理できるように教育も始めた。
そしてクラウに頼んで隣領の伯爵に食料を支援し、難民キャンプ完成までは伯爵領で難民の面倒を見るように依頼した。
インビジブル状態のドローンでカンガン進む難民キャンプの設営。
充電基地が領の中央に出来ていたため、電力は潤沢だった。
結果、一週間ほどで難民キャンプ施設は完成した。
そのころ王都から派遣された上納金強制徴収軍は、伯爵領北の侯爵領領都を目前に、悲惨な目に遭っていた。
兵の中に下痢を発症する者が多発したのだ。
新都への遠征部隊の悪夢再来である。
だが、今回の悪夢にティナやアルは関係していない。
上納金強制徴収軍の食糧管理の杜撰さによる、単なる食中毒だ。
王都出発時は一万二千もいた兵力が、各地で苛烈な抵抗に遭い、その数を七千まで減らしていた。
当初は一万以上の兵力で脅しをかければ簡単に徴収が済むと考えていた中央貴族の指揮官たちは、ほとんどの辺境領で死に物狂いの抵抗に遭った。
食料を五割も追加徴収されては冬を越せないのだから、決死の覚悟で抵抗されるのは当たり前だ。
さらに戦未経験の中央貴族の愚かな指揮で、いらぬ被害も続出していた。
しかも徴収した食料を王都に送るために、輸送部隊を出して人員をさらに減らしてさえいたのだ。
一方の侯爵軍三千は、領都での籠城戦を準備していた。
だが、侯爵領領都近くの平原に布陣した上納金強制徴収軍は、三日経っても動こうとはしなかった。
各地での連戦疲れなところに、大量の下痢発症者、無能な指揮官、もう士気はガタガタだ。
しかし、食料を各地で徴収しながらの行軍で、行軍に必要な食料以外は王都に送っていたため、侯爵軍を破って食料を補充しなければ、あと何日かで食料が尽きてしまう。
上納金強制徴収軍は、下痢を押してでも侯爵領領都を襲撃するしかない状況なのだ。
やっとのことで動き出した上納金強制徴収軍は、侯爵領領都の攻略にかかった。
ひどい下痢で動けぬ、約二千の兵士を残して。
だが、ここでも無能な中央貴族はやらかした。
なんと、四つある各門に、兵を分散して攻めたのである。
侯爵軍に食料を持ち逃げされない為に、脱出路を封じたつもりだったのだ。
アホである。
五千を四か所に振り分けたために、各門への襲撃は千二百五十ずつ。
侯爵軍が一点突破を狙えば、簡単に突破されるだろうに。
領都が陥落すれば滅亡確定の侯爵軍には元々逃げる選択肢など無いのに、相手がわざわざ兵力を分散して突入力を落としてくれたのだから、侯爵軍にとってはありがたい限りだ。
各門に配置された侯爵軍の兵は、およそ七百名ずつ。
城壁上に展開出来た兵数だけで、充分に凌げる兵力差だ。
城壁上からの攻撃でどんどんと数を減らしていく上納金強制徴収軍に、さらなる不幸がのしかかる。
伯爵領が侯爵領支援のために送った、八百の兵と五十の輜重部隊が南側に現れた。
南門付近に展開していた上納金強制徴収軍は、数を減らしている上に挟撃される形となり、慌てた中央貴族の指揮官は、伯爵軍の数も交戦の意思も確認せずに逃げ出した。
部隊の後方にいて安全だったはずの指揮官にいきなり命の危機が迫ったと、指揮官とその取り巻きたちがパニックを起こしたのだ。
逃げ出す指揮官たちを追って、隊列も何もなく散り散りに逃げる上納金強制徴収軍。
そして釣られるように逃げ出す各門攻略中の兵士たち。
士気はガタガタの体調の悪い兵士、人望の全くない無能な指揮官、食料への不安。
上納金強制徴収軍は、瓦解して敗走を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます