第二拠点候補地
やがて周回軌道上に達したダーナは、中継衛星代わりのドローンを放出しつつ南下を始めた。
ドローンの放出があるのでたびたび減速するものの、主機関が稼働しているためにかなりのスピードで移動している。
ダーナの主機関は人工重力子を利用した重力子エンジンというらしいが、説明を聞いたティナは、仕組みの理解をあきらめた。
ティナは、駆動音や振動、発光も無い謎技術エンジンとして記憶しておくことにした。
ダーナが順調に飛行プランを消化している間、ティナは艦橋で望遠カメラの操作に忙しかった。
惑星の昼の部分が見えたために、最大望遠でいろいろな場所を観察。
夜の部分から斜めに観察しているために画質はいまいちだが、大地の割れ目のような深い谷、コバルトブルーの海域、深い森に佇む大きな湖、雲を突き抜けてそびえる山脈、富士山のような形の火山、きれいに渦を巻いた台風など、いろいろなものを発見しては感嘆の声を上げていた。
やがてダーナは夜の部分に降下をはじめ、ティナの初宇宙体験は大満足の結果に終わった。
アルはダーナをカルデラ湖に着水させ、数々のドローンを放って調査を開始。
時刻は深夜を過ぎていたため、お眠のティナは艦長室のベッドで就寝だ。
夜通し探査ドローンからの観測データを整理していたアルは、この島なら基地化に向いていると判断した。
火山活動は完全に停止しているようで、地熱の変化は陸上・海底共に見られなかった。
島の植生から見てもかなりの年月噴火していないのは明らかで、樹齢七千年を超える木も発見された。
島は直径11kmのほぼ円形で、中心部には直径3kmのカルデラ湖がある。
カルデラ湖の中心部は再噴火で浅くなっているようで、ちょこんと小島が顔を出している。
湖は淡水で藻類も繁殖しているが、残念ながら魚はいないようだ。
島の海面下の形状も安定しており、富士山を七合目付近まで水没させたような地形で、近くには海溝も無い。
陸地の植生も割と豊かで、樹木の種類も豊富でヤシやバナナまであるが、なぜかブナやトウヒは見つかっていない。
反対に動物は種類が少なく、ネズミ類やモグラ類程度。
最大の動物は、カピバラのような大きさのネズミだ。
爬虫類では蛇やトカゲが確認出来たが、大型のものは発見されていない。
魔獣は全く発見されなかった。
朝起きて食事しながら探査状況を聞いたティナは、小型ローバーで島めぐりを始めた。
カルデラ湖の絶景を堪能した後で島の外周を巡ったものの、なにせ直径11kmの小さな島。
アルの忠告を聞いてローバーから降りなかったため、島めぐりは一時間ほどで終わってしまった。
だがティナは、思いの外この島が気に入ったようだ。
バナナとヤシの実が実っていたことが、その理由らしい。
ダーナに戻ったティナは、アルと改造計画を練り始めた。
まずはダーナ用のドックと基地用発電施設。これはカルデラ湖の地下に作る。
カルデラ湖の湖底が海面から1kmほど上だったので、湖底の下にドックや施設を建設するのだ。
島外の海中からL字のような進入路を掘ってカルデラ湖下のドックにつなげれば、出入りや施設は外からは全く見られない。
しかも潜水を維持して海中を進めば、インビジブル機能の無い艦載機でも日中の海洋内移動が可能だ。
さらに帰投時も海中移動なら、基地の場所が発覚しにくくなる。
次に島の防御システム。
カルデラの外輪山内部に円状の地中回廊を通し、外側に向けて対空対艦兵器を設置すれば、三百六十度の防御システムが構築出来る。
各兵器に岩壁に偽装したハッチを付ければ、未使用時は見た目がただの島になって武装は発見されない。
直上からの攻撃に対しては、カルデラ湖中央の小島を森化して、ミサイル発射口と対空レーザーを擬装設置すればいい。
最後は海中。
魚雷発射口と大型ドローンの出入口を八方向に開けておけば、敵が潜水艦でも対応可能だろう。
これで、海上・海中・空中への備えは出来そうだ。
残る問題は電力発生用の資源。
周りは海水なので水素は得やすいが、水素の製造にも電力が要る。
地下掘削で有用なエネルギー資源が発見されればいいが、しばらくはカルデラ湖にダーナを浮かべてソーラーパネルを展開することになるだろう。
地下掘削が進めば潮力発電設備も設置出来るので、しばらくは掘削工事がメインだ。
こうしてティナとアルのカルデラ島基地化計画(概要)は決まった。
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