デイキャンプ&ハンティング
ティナは再度ヒノキの露天風呂を堪能してから、ドックを旅立った。
一応中型ローバーの操縦席にはいるものの、夜間なので見る物は無い。
操縦もアルに任せているので、早くも居眠りし始めていた。
やがてアル操縦のローバーは、充電予定地点の森奥に到着。
カーゴルームからドローンを出し、岩に偽装したソーラー充電式バッテリーを設置した。
この場所は、中継基地への機材輸送時の仮充電スタンドになる予定だ。
作業後ドローン二機はインビジブル状態で発進させ、ローバーとティナの警護ドローンは、ソーラー充電式バッテリーの電力を充電に当て、さらにソーラーパネルを展開して充電に入った。
ソーラー充電式小型バッテリーではローバーや警護ドローンを満充電出来ないため、不足分をソーラー充電で補うのだ。
もっと大きな岩に偽装して充電と蓄電の容量を上げたものが良かったのだが、ローバーの積載量の関係で、2mサイズしか載せられなかったのだ。
一方ティナは、積載されていた簡易調理キットを使って朝食の準備。
展開されたローバーのソーラーパネルをタープ代わりに、アウトドアチェアやテーブルを配置していた。
この場所は魔獣のいない普通の森だが、かなりの森奥なために付近に人は住んでいない。
また、森の木々がブラインドになり、遠くからも視認もされない場所だ。
しかも魔の森とは繋がっていないらしく、魔獣がいないため野生動物が多い。
熊やイノシシ、狼などが寄ってきた場合、ティナの警護ドローンはソーラー充電中なので、ティナが狩る予定。
緊急時にはもちろんドローンも脅威排除に動くが、今のところ近くにいるのはリスやウサギ。
ティナは、森林デイキャンプ気分だ。
朝食と片づけを終えたティナは、コーヒーを入れてまったりモード。
ある程度距離を置いて出てくるリスやウサギをのほほんと眺めていたのだが、そのうち暇になり、ローバーの周りをうろうろしだした。
警護ドローンが充電中なので、ドローンからは離れられない。
ティナ一人で森に散歩に出ても危険性は少ないはずだが、アルが警護ドローンから離れることを許さないのだ。
ティナはどんぐりや松ぼっくりを拾っておかしなアートを作ったり、ハンモックを架けてゆられてみたり、木の枝にロープを巻き付けてターザンごっこしたりして、森を満喫していた。
やがて夕方になり、ローバーと警護ドローンの充電が完了。
そろそろデイキャンプも終了だ。
キャンプギアやソーラーパネルを撤収し、インビジブルモードで目的地に向けて飛び立った。
ローバーは深夜に目的地に到着し、カーゴルームから小型発電機を降ろした。
そして先行していたドローンが見つけた岩の空洞部分に発電機を仮設置した。
この発電機は中容量の蓄電機能も備えているため、作業用ドローンと警護ドローンは数分で充電を完了。
作業用ドローン二機は即座に作業を再開し、目を着けてあった岩山の内部掘削を始めた。
ちなみにティナは、日が昇るまでローバー内で寝ていた。
朝、目を覚ましたティナは、携行用の栄養ゼリーを飲みながら、警護ドローンをお供に周辺の探索に出かけた。
道など当然無いが、身体強化やベクトル魔法を使えば、大抵はどうにかなる。
そして、魔獣ハンティングが始まった。
この場所は魔獣の森内でもかなり奥に位置しているため、ティナの存在を察知した魔獣たちがわんさと寄って来る。
しかもかなり強力な魔獣も多く、死与虎までいた。
途中からはハンティングどころではなく、完全な乱戦状態だ。
警護ドローンの高出力レーザーでも一撃では仕留めきれず、警護ドローンが魔獣の足を攻撃して移動力を鈍らせ、ティナが魔獣討伐用の光の矢で仕留める連携プレイになった。
やがて周辺にいた魔獣を狩り尽くしたのか、魔獣の追加が無くなった。
ティナはやっと探索の続きができると考えたが、アルは強硬に帰還を主張した。
警護ドローンのバッテリーが尽きれば、ティナは一人で強力な魔獣と戦わなくてはならなくなる。
さすがに危険度が高すぎると説得され、渋々帰還を承諾するティナだった。
ローバーに戻ったティナは、警護ドローンと共に倒した魔獣を回収して、くり抜いた岩内に収納。
その後、発電機が蓄電した電力でローバーと警護ドローンを充電し、インビジブルモードで帰路に就いた。
カーゴスペースに空きが出来ていたため、警護ドローンを搭載してのフライトだ。
日中のフライトになったので、ティナはドライブ気分で景色を楽しんでいた。
森林奥のエメラルドグリーンの湖、牧歌的な丘陵地帯の村、湖畔に佇むルネサンス様式の街並み。ティナは大満足だった。
デイキャンプした森奥に到着した時には、日が落ちて夜になっていた。
岩に偽装したソーラー充電式バッテリーの容量ではローバーは満充電にはならなかったが、充電後すぐに飛び立った。
カーゴスペースにある警護ドローンのバッテリーを使えば、ドックまで充分に帰投可能だからだ。
夜明け間近にドックに帰り着いたティナは、東雲の空と山脈が見られて、朝から上機嫌だった。
鼻歌気分で露天温泉に浸かり、朝食後にペントハウス(老舗旅館?)探索を始めた。
広い。
建物は木造三階建で瓦屋根まであるし、広い日本庭園の中庭を囲う形でロの字状に建てられているため、部屋数は数えるのが面倒なくらい。
木造の回廊は、平安時代の寝殿造りのような印象を与えてくる。
全体の広さも京都御所の半分くらいはありそうで、何より楽しいのは日本庭園の散歩道。
樹木や岩、池や小川、橋や東屋を巧みに配置し、歩き進むごとに表情を変える森の中を散策しているような楽しさがある。
そして回廊からは、奥行きを持った庭の風景が楽しめるようになっている。
「アル、すごい。よくこれだけの庭を作ったね」
【ティナの記憶にある、ティナが好む日本庭園をサンプリングして好みの配置を割り出し、出来るだけどの角度からでもその配置に見えるように計算しました】
「それでかぁ。私の好みにばっちり嵌ってるよ。アル、本当にありがとうね、すばらしい出来だよ」
【どうたしまして。気に入ってもらえてよかったです。ところでそろそろお昼ですが、昼食はどこで摂りますか?】
「う~ん、悩むなぁ…。じゃあ、庭の東屋で!」
【了解です】
こうしてティナは、システィーナ御所と命名した最上階のペントハウスに入り浸った。
本来ティナは自分の名前を物や場所に付けるのは避けるのだが、あまりにこの場所が気に入ったため、自分の物だと主張したくて自分の名を使ったのだ。
毎日スキップするようにシスティーナ御所を歩き回るティナを見て、アルは次なるサプライズのために、ティナの記憶を検索し始めた。
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