老舗旅館?
夜間活動のために早寝しようとしたティナは、アルが作ったティナ用のペントハウスに唖然とした。
旧艦はフレームむき出しで部屋としては使えず、新造艦はいまだ内装工事中。
アルはティナが戻った時の居住用にと、ドックの進入路左右になる部分をビル化し、最上階にペントハウスを作っていた。
進入路最上部をわざと掘削せず、左右のビルの最上階を繋げたような構造の、かなりの広さをティナ用宿泊施設化していた。
だが、ペントハウスと言うには大きすぎる。
高さはビル五フロア分をぶち抜き、中心部に日本庭園の中庭を囲う、回廊付きの木造三階建て老舗旅館のような構造だ。
天井は薄曇りのような発光パネルで、庭は緑の起伏が美しい苔庭、小川や池、松やもみじなどの樹木、散歩用の飛び石や東屋まである。
「……なにこれ?」
【ティナの記憶を参考にして作りました。残念な事に、鯉はまだ見つかっていませんので不完全です】
「すでに国家元首を招けるレベルだよ。……客室は洋室もあるの?」
【はい。ユニットバス付の完全洋室と和洋折衷の部屋もあります。お風呂は炭酸水素塩泉の大浴場と露天風呂、大宴会場やスポーツジム、バーや囲炉裏型居酒屋も作りました】
「……ここ、バレちゃいけない場所だって分かってる?」
【はい。ここはティナだけのための施設ですよ】
「明らかにやりすぎでしょ」
【二万人規模の城郭都市を作ったティナには言われたくありませんね】
「あ、あれはみんなのための施設じゃん! 私一人のためにこんな施設作っちゃっても、もったいないよ!!」
【大丈夫です。毎日気分を変えて、飽きないように使ってください】
「…分かった。万一ここに引き籠らなきゃいけない場合でも、私が飽きないようにしてくれたんだよね。ありがとうアル」
【良かった。楽しんで使ってください】
「うん、私のための施設なら、使い倒すよ。でもさ、ここ作る作業能力を新造艦建造に充てたらよかったんじゃない?」
【残念ながら電子部品の製造ラインが小規模なので、ボトルネックになってます。新造艦建造作業は電子部品の仕上がり待ちになる事も多いので、部品待ちの空き時間でここの施設は作りました】
「製造ラインは増やさないの?」
【それこそ無駄になります。新造艦を何隻も作り続けるなら製造ラインの拡張もしますが、一艦建造すれば後はドローンの補修部品製造くらいしかラインは使いませんからね】
「ああ、なるほど。ライン増設しても、後で壊すなんて嫌だよね。よし、じゃあ今日は和室に泊まりたいから、案内して」
【了解です】
案内された最上級の和室には、日本庭園を望むヒノキの露天風呂まで付いていた。
テンションの上がったティナは中々寝付けないはずだったが、真新しいイ草の香りに包まれ、知らぬ間に眠りに落ちていた。
【ティナ、そろそろ起きなきゃだめですよ】
「んぁ……。ふぁ~あ、アル、おはよう」
【おはようございます。食事を用意しましたので、身支度が出来たら食べてください】
「うん、わかったぁ」
「ねえアル、和室で洋食は、ちょっと合わないね。お米ってまだ見つかってないんだっけ?」
【長粒種は見つかりましたが、短粒種はまだですね。長粒種から遺伝子組み換えで短粒種にして栽培してみましたが、ティナの記憶にある味や食感には程遠いので、今も組み換え実験中です】
「そっか、じゃあ仕方ないね。どうせならおいしいお米食べたいし。ご馳走様でした。…ねえ、もう一回露天風呂入る時間ある?」
【出発予定時刻までは、三十二分あります】
「じゃあもう一回入ってから行くよ」
【了解です】
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