アルもやりすぎじゃん!
アルの存在をクラウに告白したことで、これまでティナ経由だったアルとのコンタクトが、ティナ不在でも可能になった。
クラウは執務室でアルと直接会話出来るし、アルも領政関連の報告をクラウに直接話せる。
つまり、ティナが領都に詰めている必要性が激減したわけだ。
現在ティナが必要とされるのは、催事の際の妖精教会での巫女仕事。
そして魔法やポーション関連の高度な指導くらい。
シュタインベルク発展のための色々な知恵出しも、ティナは相談されない限り自制することにした。
結果、ティナは暇になってしまっていた。
現在ティナは暇つぶしに自宅を掃除しているが、普段からドローンが自宅を管理しているため、はっきり言えば自己満足な行動でしか無い。
「アル、私一度拠点に帰ろうかな?」
【おや、何か目的が?】
「いや、シュタインベルク発展のための行動は、領主家の意思と独立性を尊重して自粛することにしたから、私暇なんだよ。拠点を長いこと離れてるから、一度帰ってみるかなぁくらいの気持ち」
【それはつまり、シュタインベルクを発展させて遊ぶのはクラウに悪いから、拠点改造して遊ぼうということですか?】
「……そうともいう」
【拠点に関しては、ティナは隠しドックの案くらいしか出していませんね。現地視察して魔改造しますか?】
「魔改造って…。まあ、そんな感じかも」
【そうですね。拠点よりもシュタインベルクの方がティナのアイデアが多く取り入れられているのは寂しいです。拠点改造してはっちゃけてください】
「うん、はっちゃける」
こうして拠点改造計画が始まった…はずだった。
「……アル、なんで二艦もあるの?」
【報告しましたよ。直すより新造した方が早いと】
「うん、それは聞いた。だけどこの世界で惑星降下艦なんて作れないと思ってたから、修理の大変さを表す比喩的表現だと思ったの。プロセッサとかの電子部品なんて、専用の設備無きゃ作れないでしょ」
【専用の設備を作りましたよ。この艦は未開惑星上で故障した場合も、自力修理して母艦に戻ると説明しましたよね】
「うん、聞いた。でもそれって、修理用の部品満載してる程度に思ってた」
【それでは部品のストックが足りなくなれば、結局修理不能じゃないですか。部品を作る設備構築能力くらい装備してますよ】
「つまり、どんな場所でも艦を新造する能力があるってこと?」
【宇宙空間では無理ですよ。資材が入手出来ませんから】
「地上だって、その惑星に存在しない原料とかあるでしょ」
【分子変換で作り出します。資材さえあれば】
「…それって、もう原子変換じゃないの?」
【分子変換機に原子変換機能も組み込まれてます。例えば水から鋼に変換する場合、水の水素原子と酸素原子から鉄原子と炭素原子を作り出して鋼にしますから、分子を違う分子に変換してるでしょう?】
「あ、うん、そういう意味なのね。でもさ、それって原子核いじってるんでしょ、危なくない?」
【核分裂や核融合反応させないために膨大な電力を使用します。安全性は確立されていますが、エネルギーコストが大きいですし時間もかかりすぎますので、普通はやりませんよ】
「そうなんだ…。私の前世の知識じゃ理解不能だわ。まるで錬金術みたい」
【分子を違う分子に変換するわけですから、まあ意味合は合ってますね】
「充分に発達した科学技術は魔法と見分けが付かない。まったくその通りだわ」
【私からすれば、魔法の方がよほどすごいと思うのですが】
「魔法もある意味分子変換よね。魔素を炎や水に出来るんだから」
【大きな電力も使わずに一瞬で変換出来るのですから、私の持つ科学技術よりも優れていると思いますよ】
「私にとっては、どっちも原理は理解不能だよ。まあ、便利だから使うけど。あれ? 話がかなり脱線してる。そうそう、新造艦ってどのくらいで出来るの?」
【船体は完成して、今は内部の設備を作りながら取り付けています。完成予定はおよそ一ヶ月後ですね】
「おおう、いよいよ宇宙旅行が近づいてきたよ。楽しみだなぁ」
【宇宙旅行規模ではなく、衛星へのお散歩程度ですよ】
「月を見に行くのがお散歩…。感覚がおかしくなりそう」
【何光年も資源を求めて宇宙を旅することに比べれば、衛星を見に行くなんて誤差範囲です】
「ああ、アルにとってはそういう感覚なのね。納得したよ」
謎科学談義を終えたティナは、アルに案内されて拠点設備を見て回った。
ドックの地下には、ティナの予想を遥かに超えた世界が広がっていた。
大型重水素発電設備、ドローン製造工場、電子部品製造工場、各種金属精錬成形工場、各種艦装備組み立て工場、紡績製織裁縫工場、超大型倉庫、奥が霞んで見えるほどの地下畑、食品加工工場、などなど。
「アル! はっちゃけすぎ!!」
【なぜですか? 設備の半数以上が艦の修理や建造用です。残りはシュタインベルク支援のための設備です】
「艦の修理や建造用設備は仕方ないとしても、畑とか大きすぎ!」
【蝗害や飢饉などで食糧危機になった場合でも、シュタインベルク領を支えられる生産量を確保しただけです】
「穀物や野菜類育ってたじゃん! 収穫しても使い切れないでしょ! 食べ物粗末にしちゃダメ!!」
【心外な。廃棄とかしませんからね。ティナが艦で食べていた食料のように、二百年は保つように加工した上で専用保管庫で保管しています。資材を無駄にするなど、絶対にしませんよ】
「あ、そうなんだ。勘違いしてごめんなさい。それでも、さすがに多すぎない?」
【領民を一年間食べさせられるだけの量を確保したら、畑は休耕の予定です】
「二万人を一年分? 多すぎて使いきれないんじゃない?」
【二百年間飢饉が発生しない可能性なんて、この世界の農業技術ではありえませんよ】
「それはそうかもだけど、クラウに受け取りを拒否されたらどうするのよ」
【その質問にはティナが答えるべきです。どうしますか?】
「……無理矢理にでも押し付ける」
【なら問題ありませんよね】
「…いつの間に私の行動予測までするようになったのよ?」
【所有者の思いに応えられるよう、日々精進していますから】
「うぐ。アルの成長を望んだのは私だけど、なんかうまいこと丸め込まれた気がする」
【気のせいです】
「…まあいいか。でもさ、ここの地上部分は自然なままがいいし、地下をこれだけ開発整備しちゃったら、もう私の考えることなんて無いよ?」
【おや、ティナならなにがしか面白い意見が聞けるかと思ったんですが…残念です】
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