やりすぎらしい
「あ、ティナ、領内の犯罪発生の新規報告があるのですが、どうしましょう?」
「へ? …今後は領内の事なら、いちいち私を通さずに、クラウかアルノルトさんに直接報告して」
「了解です。先ほど国境となる川を、十三人の人間が無許可で渡りました。森の中なので、こちらの兵士は気付いていませんね」
アルの言葉と共に、空中に映像が現れた。
映像には、ロープを使って次々に川を渡る人が映っている。
「頬と額に罪人印がある者が多いですな。盗賊のようです」
「罪人印ってどんな時に付けられるの?」
「バンハイムの法を犯した罪人に付けられます。一度目は額に、二度目は両頬に、三度目で利き腕を落とされますな」
「…片腕無い人もいるね」
「ここが他国になったことで、バンハイムから逃げ込んで来たのでしょうな」
「こういった場合はどうするの?」
「他国の罪人であっても、うちの領内では無断越境しか罪は犯しておりません。捕縛して目的を詮議の上、伯爵領の領兵に引き渡すべきでしょう」
「現在こちら側の関所の兵は、待機や交代要員合わせて十二人です」
「関所を放置する訳にもいきませんので、捕縛に向かえるのは六名ほど。相手は武装もしておりますので、旧都から兵を出すべきでしょう。いかがいたしますかクラリッサ様」
「そろそろこの領を、自分たちだけの力で維持出来なければいけません。ティナ、わたくしたちだけに対処を任せてもらえますか?」
「領主であるクラウがそう決めたのなら、私たちは手出ししないよ」
ティナの返事を聞いたアルは、空中の映像を消した。
「ありがとうティナ。アルノルト、多くの領兵を派遣して、捕縛出来る可能性は?」
「…旧都から領境の森までは、馬でも半日以上かかります。どちらに逃げたか分かりませんと、捕縛は難しいでしょう」
「そうですわよね。…では、村周辺と街道の警備をできるだけ強化してください」
「承知いたしました。各村への通達も早馬にいたしましょう」
「そうね。あと、領都の兵も半数を巡回警備に派遣して」
「領都の防御力が落ちますが?」
「領都の各門は、往来時のみ開ければ充分よ。関所を通っていないのだから、通行証が無くて領都には入れない。十数名で城壁外からここに侵入なんて出来ないから、ここは兵を減らしてもいいわ」
「承知いたしました。早速手配いたします」
「ええ、お願いね」
アルノルトは、クラウとティナに一礼して退出した。
「ティナ、万一住民が襲われることがあれば、その時だけはアルさんにお手伝いをお願い出来る?」
「そうだね。ここは妖精の加護がある領だからね」
「ありがとう。アルさんも、領都以外では手出し禁止ですよ」
「領都以外で領民が危険に晒されてもですか?」
「…今まで通りで、過剰な対応は控えてください」
「了解しました。ではティナ、もう一つの報告を」
「ああ、忘れる所だった。あのねクラウ、領都内に妖精が生まれそうなの」
「…は?」
「ティナ、それでは伝わりませんよ。クラウ、住民の祈りが魔法になって、妖精らしきものを生み出しそうなのです」
「えっと、ちょっと待ってくださいまし。それは……えっ!? 住民が妖精を生む!?」
「ええそうです。妖精教会で祈る住民の思念が魔法になって、魔素で出来た妖精の形をしたものが生まれそうなのです。しかもその魔素の塊は、魔法が使えそうです」
「……驚きましたわ。そんなことあり得るんですの?」
「だよね、びっくりするよね。まるで神の奇跡だよ」
「…ふう。祈りによって奇跡を生む。これこそが奇跡の根幹なのかもしれませんね」
「そうだね。だから将来は、私やアルが関知しない妖精の行動が起きるかもしれないの」
「…それは住民の感情が望んだ妖精。つまり、悪い妖精になるも良い妖精になるも、わたくしの領政次第ということですわね」
「ごめんなさい。私が偽の妖精なんて見せちゃったから、そうなっちゃうかも」
「いいえ。わたくしはアルさんのような良い妖精が生み出されるよう、頑張る目標が出来ましたわ」
「私もアルと一緒に、これまで以上に協力するからね」
「…ティナ、申し訳ないのですが、助力いただくのは徐々に減らしていただけませんか?」
「え?」
「今のシュタインベルクは、ティナとアルさんの協力が無ければ厳しい運営状況です。食料関係は何とかなっていますが、防衛や治安維持に関しては頼り過ぎなのです。わたくしは、友誼とは一方的に頼るだけでは成り立たないと考えています。もちろんシュタインベルク領がティナやアルさんと同等の力を付けられるなどとは思っていませんが、わたくしはティナとは対等な友人でありたいのです。そのためには、このシュタインベルクを自主運営できるようにしたいのです」
「…私って、やりすぎてるの?」
「ティナがわたくしたちのために助力してくれているのは、友人として素直に嬉しいわ。ですが同時に、友人に借りばかり作ってしまうのが辛いのです」
「……言われてみれば、私も逆の立場だったらしんどいかも。分かった、これからはクラウが望んだ時に、やり過ぎない程度に手伝うよ」
「ありがとう、ティナ。今はまだ防衛や治安維持で頼らせてもらうけど、もう少しだけ待っててね」
「うん。こっちこそ、愛想尽かされないで友達でいてくれてありがとう」
「あら、わたくしにとってティナは親友なのよ。ずっと親友でいたいから頑張るんだから、愛想なんて尽きるわけ無いのに」
「じゃあ、私も良き親友であるために節度を学ぶよ。アルもやりすぎ注意だからね」
「了解です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます