うそん……
「……うそん。あのフワフワ浮いてる魔素の塊、妖精っぽく見えない?」
【やはりそう見えますか。クラウが妖精王国への所属を宣言した時に使った妖精のシルエットとの類似性が認められます】
「……ねえ、魔素カメラで私を写してみて」
【はい。……ティナ、何をしたんですか? 教会内の現象と、ほぼ同じ映像が確認出来ました】
「魔法で妖精を形作ったの。ただし、魔素を魔法一回分だけ込めて」
【…あの現象は、魔法ということですか?】
「…これは推測でしか無いんだけど、妖精教会って妖精の存在を信じてる人たちがいっぱい礼拝に来るよね。その礼拝した人たちの想いが魔法になって、妖精と言うものを生み出しかけてるとか?」
【驚きました。そんなことがありえるのでしょうか】
「確定じゃないけどね。神の降臨や奇跡って、案外こういう現象が多いのかも」
【もしそうであった場合、今後どうなってしまうのでしょう?】
「分かんない。でも……はぁ、まいったなぁ。これ、私がドローンで妖精を演出して信じ込ませちゃったからだよね。これは、みんなを騙した罰が当たったのかも…」
【罰とはどういうことですか?】
「あの魔素の塊、中位魔法が使えるだけの魔素量あるんだよね。つまり、私の意志で動くドローン妖精とは別に、住民の意志で動く魔法を使える妖精が出来ちゃうってこと。もうね、妖精を騙って好き勝手するなって、お灸を据えられた気分だよ」
【…現状はまだ仮説にすぎませんし、魔素量も中位の魔法を一回使ったら消滅しそうですよ】
「そうじゃなくてね、人を騙してることを叱られた気分なんだよ。妖精を騙ってみんなを騙してる自覚はあったけど、誰にもばれないしみんなのためにやってるんだからって驕りがあったんだね。それを騙されてるみんなから、しかも無自覚に指摘されたの。これは結構きついわー」
【かなりの精神負荷のようですね。いっそドローン妖精は止めますか?】
「この領の防衛力は、まだまだドローン妖精が主軸なんだから止められないんだよ。つまり、騙してることを指摘されつつ、騙し続けなきゃいけないって事。自業自得だけど、きっついなー」
【ティナ、なぜあなたが重圧を感じながらドローン妖精を続けなければならないのですか?】
「え? だって、この領を独立させちゃったの私だよ。責任あるじゃん」
【この領の領主はクラウですよ。しかも、クラウは妖精王国や妖精王が架空のものだと知っています。その上でクラウは独立を決断しました。もしティナが全く介入しなければ、この領はどうなっていたのでしょう?】
「えっと…。多分クラウたちは死んじゃってて、領民は重税を課せられて、奴隷みたいに延々と働かされる?」
【ティナの前世の記憶では、圧政に苦しむ民は我慢の限界を超えると蜂起するのでしょう?】
「分かってるよ。わずか二万の辺境住民が蜂起したところで、戦力的には一万がいいとこ。ガチガチの封建社会で補給の不安な一万の平民戦力なんて、多分鎮圧されて酷い結果が待ってる。領民を守るために、クラウには独立して住民を死なせないようにコントロールするしか選択肢が無かったんだよ」
【ティナはクラウを助けたかった。クラウの元に集った住民も助けたかった。そしてティナには助ける力があったから力を使った。ただ、私の存在を隠すために妖精と言う架空の存在を使った。それだけのことではないのですか?】
「……ああそうか、やっと気づいた。これは私の自己嫌悪なのか。みんなを騙してることを誰からも責められないから、自分で責める理由付けが欲しかったんだ。あ~あ、私ってめんどくさい性格してるなぁ…」
【私の存在を秘匿するために、ティナには余計な重圧を背負い込ませてしまっていますね】
「いや、隠すのは私が決めた事だよ。自分が決めたことくらい、ちゃんと責任持たなきゃね。クラウやみんなが酷い目に遭うくらいなら、私が嘘吐きになるくらいどうってことないや」
ティナの言葉とは裏腹に、ティナの精神的負荷はあまり軽減されていないことをアルは検知していた。
【私から重要なお願いが一件あります】
「え、何?」
【クラウに私の存在をある程度話しませんか?】
「…ある程度って?」
【私が妖精ではなく、ティナが手に入れた力であること。そして危険分子を処分したことです】
「それは……」
【私は妖精では無いと知らせるだけですから、私の兵装がバレるわけではありません。それに、危険分子の処分は本来領主であるクラウが考えることでしょう? ティナは領主の権限を、一部侵害していると思います】
「そう…だよね。クラウに内緒は、やっぱりダメだよね…」
【はい。ティナの精神的負荷データからすると、危険分子を処分したことをクラウに知らせていないことが、かなりの負荷になっているようです】
「あ~、そうかも。クラウは知らない方が楽だろうって考えてたけど、それって領主としてのクラウを蔑ろにする行為だよね。よし、勝手しちゃったことを謝って、アルが妖精じゃないことも打ち明けよう」
【はい。私とティナは、あくまで善意の助っ人です。領主の意志を尊重しましょう】
「うん、そうだね。今から話に行こう」
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