もう許さん!

※残酷表現あり


翌朝には、商隊を装った賊全員が捕まった。

生け捕り五人、水死体一人。

五人は苛烈な取り調べにも口を割らなかったため、都市外での斬首刑となった。


本来刑の執行は都市内で行われるもので、見せしめ的要素を含んでいるのだが、クラウは妖精と住民に残酷なものを見せるのを嫌がった。

魔獣のいる森に手足の腱を斬って放置する刑もあるのだが、これは魔獣に余分な餌を与える行為だとして敬遠されつつある。

結果、人の来ない場所での刑執行の後、火葬することになった。


手足を縛られ牢型の荷車に押し込められた賊たちは、衆人環視の中でクラウからの罪状朗読と判決を受け、兵たちに囲まれながら馬に引かれて行った。


アルノルトは、賊が泊まっていた宿から商人用の鑑札を回収。

発行元の西国商業ギルドに、領主襲撃犯に鑑札を与え敵対行動をとったと厳重な抗議文を送った。

真摯な謝罪があるまで同一ギルドの鑑札での入国を禁じる、との一文を添えて。


一方領主館の警備も見直された。

妖精の手助けが無ければほとんどの賊を取り逃がしていた可能性もあるため、夜間の領都内巡回と島の外周警備が追加された。

そのために領兵の追加募集がなされ、仕事にあぶれ気味だった出稼ぎの次男三男が、こぞって応募した。


領主館への襲撃騒ぎがあってから一週間、ティナは襲撃依頼者の情報を得た。


【ティナ、クラウ襲撃の依頼人、分かりましたよ】

「それって大元?」

【はい。情報をたどりました】

「そういう依頼って、普通は証拠残さないように口頭依頼とかじゃないの?」

【そうでしたね。口頭依頼の上に、間に二人挟んでました】

「…口頭での依頼なのに、情報をたどった?」

【まだ殺してませんよ。昏睡状態にして医療ポットにご招待しました】

「王都に医療ポットまで持ち込んじゃってるよ。しかも『まだ』とか言ってるし。…で、どんな人たち?」

【あれって、人ですかね? 殺人や誘拐を請け負う仲介人でした。仲介者の一人は平民でもう一人は下級貴族。記憶では数十人の殺害依頼を仲介していました】

「ふーん、それってもう人に害成す魔獣以下だね。それで大元は?」

【警告を聞かない馬鹿二人です。符丁や暗号を使って依頼を出してました】

「四人ともやっちゃって」

【終了しました】

「は? ……準備して命令待ってたのね。アルは大丈夫なの?」

【何度演算してもティナの許可待ちになるので、仕方なく報告しました】

「ちょっと! 私がアルにストッパー役頼んだのに、何で私がアルのストッパーになってるのよ!?」

【所有者ですから】

「ぐはっ! …私は自分で自制しなきゃダメなのね」

【これからもよろしくお願いします】

「…私は間接的なのも含めたら、もう十四人も殺してる。しかも私を殺そうとした相手じゃなくて、私の大切なものを壊そうとした人たちを。それだけはしっかり覚えとくよ」

【おや、襲撃者六人と今の四人で、計十人では?】

「元使者三人と修道士もね」

【欲張り過ぎでは?】

「こんなことで欲張れないよ!!」


アルはティナのインプラントチップから精神的負荷の増大傾向を検知し、一瞬黙った。

そしてたとえ相手が悪人でも、ティナの精神的負荷軽減のために人の死をからかいのネタにすると、ティナの精神的負荷がかえって増大すると学習した。

そのため口調を真面目なものにして、かねてからの疑問をティナに質問した。


【ティナは今回、クラウのために強硬手段に出ました。ですが、ティナ自身に理不尽を働いた修道院には報復していません。何故でしょうか?】

「……私にもなんでか分かんないんだけど、私自身が受ける理不尽より、私が大切に思ってる人に理不尽働くやつの方が、より腹立つんだよね。それと今後の被害を見てるんだと思う」

【理由不明ですか…。今後の被害とは?】

「暗殺者も暗殺命じた奴らも、今回見逃したらまた同じことする可能性が高いから」

【その可能性は高いですね。では、修道士や元使者もですか?】

「修道士は今後も孤児や妖精教会の二人に害を成す可能性あったし、元使者なんてバンハイム王国の威光を笠に着て仕返ししそうな奴らだったから」

【今後の被害と言うことなら、修道院院長も当てはまるのでは?】

「…ああそっか、言われて気付いたよ。私は今後も私の周りに害を成す可能性を危険視してるんだ。院長なんて、どうあがいてもこっちに害をなせないもん。つまり私は、自分の手の届く範囲だけを守りたいんだ」

【なるほど、納得しました】

「あとね、余談だけど、あの修道院の人たちって、多分殺される未来が確定してるよ」

【なぜですか?】

「あそこは貴族女性を処分する場所なんだよ。それを実行してた側は平民ばかりで、どの貴族が身内を餓死させたか知ってるって事。そんな人たちを、貴族が生かしておくと思う?」

【口封じですか。ですが、次々に施設側の人間が死ねば、自分の身が危ないと気付くでしょう?】

「あそこ、何年かするとみんな栄転していくんだよ。しかもあそこはやばいことを隠れてする場所だから、私信は絶対禁止」

【なるほど、『栄転先』からの手紙は、絶対届かないわけですか。死の国への栄転とは、因果応報ですね】

「うまいこと言うね。私は喜んで栄転していく人に、心の中でお悔やみ言ってたよ」

【なぜ気付かないのでしょう?】

「あそこは『平民が早く教会内での地位を上げられる場所』ってなってるらしいからね」

【自身の欲で他者を死なせ、そして欲に目が眩み、自分に降りかかる死が見えないわけですか】

「ね。まさに因果応報でしょ」

【『貪欲は必ず身を食う』の方が適切では?】

「む。…そうかも」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る