ついに来やがった! 1/2

スタンピード時の対応で、ティナとアルはドローンへの給電と配備状況に不安を感じ、領の中心近くに小型・中型・大型ドローンの待機場所と充電スタンドを作った。


現在の領都は領の東の端にあるため、有事に中型以上のドローンが駆け付けるには、非効率な状態だった。

休憩所に偽装した小型ドローンのソーラー式充電スタンドも、発電量が天候に左右されて確実性に欠けるからだ。


領内の中心近くで候補地を探した結果、森の中にぽっかり大穴が開いているのを見つけた。

大穴の直径は100m近くあり、150mほど下がった底には、川が流れていた。

おそらく地下水が流れる上の地面が、浸食などの理由で陥没したのだろう。


アルは、ここの横穴を拡張して上からは見られないように、水力発電施設と駐機場を作った。

ここでは水車小屋に偽装する必要が無いために多数の水力発電機を設置出来たので、領都の水車小屋よりはるかに発電量が多い。

大型ドローンが二機、中型小型は領内に配備したすべてのドローンが駐機充電出来る、ドローン用の基地である。


この基地が出来たおかげで、ドローンの運用効率は格段に上がった。

そして情報収集密度の上がったドローンからの映像を解析していたアルは、おかしな集団を見つけた。


【ティナ、初めて来た商隊なのですが、他の商隊とはかなり違った行動を取っている集団があります】

「どう違うの?」

【他の商隊はみな積極的に領民たちと会話するのですが、この商隊は全くそれがありません】

「商隊なのに情報収集しない? …宿での様子は?」

【一人が酒場で飲んではいますが、誰とも会話しませんね。残り五人は部屋にこもりきりです】

「…商売はしてるの?」

【領内に入ってからの映像を再確認しましたが、まったく行っていません】

「商品は分かる?」

【関所では民芸品や服を確認しています】

「今どこ?」

【昼過ぎに領都に入ってます。今は全員が屋外に出てますが、分散してますね。ああ、商店に商品を持ち込んでいる者もいますが、他はバラバラに、ですが領主館周辺を歩き回っています】

「うわ~、なんかやな感じ。ついに来ちゃったかなぁ」

【やはり暗殺か誘拐、もしくは高額商品の窃盗目的でしょうか?】

「可能性は高いよね。各倉庫は領兵とドローンの二重警備だからいいとして、私は領主館に泊まり込みするよ」

【どうしますか?】

「できるだけドローンでその商隊マークしといて。領主館の警備もドローンで強化」

【手配しました。一連の行動が犯罪者の特徴ですか?】

「というより不審者の行動だよね。情報収集もせずに商売もしない商人なんていないから、商人に偽装してますって言ってるようなものね」

【なぜこんな分かりやすい行動を取ったのでしょう?】

「うちの領は他国になったから、商人以外の出入りは規制されてて目立つ。無断越境じゃ許可証もらえなくて領都に入れない。仕方無く商人に偽装したけど、出来るだけ顔は覚えられたくない。本来の目的を達成したら帰らなきゃいけないから、領都で商売した実績残して怪しまれずに関所を通りたいってとこじゃない」

【私には対人用の計略・謀略関連データはありません。今回の事も、独立時にティナからクラウ暗殺の危険性を指摘されていたからこそ暗殺の可能性にも気付けました。データは今後も蓄積していきますが、物になるまでかなりの時間がかかりそうです】

「今回の事もまだ確定じゃないけどね。危険性の判断データは、私の記憶から歴史や小説の内容をサンプリングすればいいと思うよ。あと、上位貴族家に盗聴器仕掛けるのもアリかも」

【了解です。戦術構築プログラムだけでなく、知略・謀略・陰謀系のシュミレーションプログラムも構築しまていきます】

「うん、アルの負担にならない範囲でお願いね。でも、そんなの無くても警備は万全でしょ?」

【確かにそうですが、襲撃が事前に察知出来れば対応策も取りやすくなります。今後のためにも構築を急ぎます】

「もう構築はされてるみたい。その判断自体が、既に権謀術数の判断だと思うよ」

【…そうかもしれません。確度を上げるためのデータベース充実を急ぎます】

「焦らなくていいよ。私の記憶だけでも情報社会にあふれてた量の権謀術数データなんだから、後はゆっくり足していけばいいよ」

【…私は焦っているんですか?】

「うん。過保護な親が、子どもの周辺環境にまで心配をしてるように見える。まさにヘリコプターペアレンツ」

【ですが私の判断ミスで、もしティナに悪い結果をもたらしてしまったらと思うと、急ぐのが当たり前では?】

「ほら、それが焦りだよ。どんなに心配しても、悪い事は起きるんだから。起きた後の対処の方が、よっぽど大事だと思うよ」

【…例えば今回の例では?】

「襲撃されたら襲撃犯の記憶をスキャンして、依頼者に仕返し」

【その場合、医療ポットを襲撃者に見せてしまいます】

「死んでたら?」

【なるほど。ですが、完全に記憶をスキャンするには、死亡後二十分が限界です】

「じゃあ、領主館の近くに医療ポット隠しておこうか」

【ありますよ。医療器材を積んだ中型ローバーが、領主館裏の川中に岸の地下を削って駐機してあります】

「いつの間に…」

【ティナが領都での活動時間が長くなったので、川を拡張した時に配備しました】

「森の自宅からここまで二十分かかんないじゃん! 過保護すぎだよ」

【医療ポットも中型ローバーも余ってましたから。水車小屋から地中ケーブルで充電してますので、いつでも使用可能です】

「…」


自慢するように語るアルに、ティナは閉口した。

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