妖精の天祐


五月、スタンピードで活躍した兵たちが領都に招待された。

領主館で報奨金の授与と懐中時計の貸与を受けたのち、妖精教会で『妖精の天祐式』が行われた。


儀式名も儀式の手順も、ティナが適当にでっち上げた。

ティナが祭壇にチューリップ型のロッドを置いて祈ると、白かったチューリップの花が、虹色にきらめく。

そのロッドを跪く兵士の頭にかざすと、ロッドから光の粒が溢れて兵士に降り注ぎ、花が白色に戻る。

これを功労者分繰り返すのだ。


実際には、アルがインビジブルドローンでロッドの花の中に魔核を仕込み、花を虹色に見せているだけ。

ティナはロッドを功労者の頭にかざし、無詠唱魔法で魔核を割る。

同時にアルがホログラムで光の粒を出し、花の色を白に戻す。

魔核を多く隠すために、チューリップの花が花束になっているのはご愛嬌だ。


こうすれば魔核の一番近くにいる人物に多くの魔素が吸収されるため、レベルアップする。

しかも『妖精の天祐』と銘打っているため、功労者は妖精の天祐を受けて強くなったのだと考えるはずだ。

レベルアップとは魔物を倒した時にごくまれに起きる奇跡だという、間違った常識を利用した隠蔽レベルアップなのだ。


今回の功労者は十二名。

全員が領兵の中核を担う者ばかりで、クラウへの忠誠心も高い。

今回のレベルアップで魔力量は四倍くらいにはなっているはずで、今後も忠誠心の高い家臣には、戦闘職、事務職問わず『妖精の天祐式』を行う予定だ。


今回使った魔核は討伐報奨金と交換した功労者自身の討伐分なので、妖精の戦利品である魔核はそのまま残っている。

これを使って、後でこっそりアルノルトとユーリア、ベルノルトを強化する予定だ。


「ティナ、本当に妖精様は怒っていないのですね?」

「うん、大丈夫だよ。妖精って、誰にも迷惑の掛からないいたずらが好きなんだよ。結構ノリノリで協力してくれたから(実際アルはシュタインベルク領の兵力強化には大賛成だったから、完全な嘘ではないんだよ。だから許して)」

「そうなのですか。無害ないたずらが好きなんて、なんだか親近感が湧いてしまいましたわ」

「(ごめん、本当のいたずら好きは私だけど)そうだね。妖精は畏れ敬われるより、親近感を持ってもらった方が嬉しいと思うよ。なんせこの地の民は、妖精の友民だから」

「人を幸せにすることが好きないたずら好きの友人。なんだか心が暖かくなりますわ」

「うん。私たちはその友人のためにも、幸せに生きなきゃね」

「そうですわね。わたくしたちが幸せであることが、妖精様へのお礼になるのですね。頑張ってもっとみなを幸せにしますわ」

「えっと、頑張り過ぎると妖精が心配しちゃうから、ほどほどにね」

「まあ! なんて心優しい友人なのでしょう」

「そうだね…(そろそろ止めてー! なんか身体がかゆくなってきた)」

【自業自得では?】

【分かってるから言わないで! てか、いつの間にかぼやきが通信に乗ってるし!】

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