兵士強化計画

「クラウ、魔核がいっぱい届くみたいだけど、妖精は魔核なんて要らないって言われるよ。使い道どうするの?」

「そうですわね。スタンピードは必ず起こるわけですから、出来れば兵のレベルを上げたいですが、その場合、魔核を破壊するところを見られてしまいますわね」

「見られても、やり方教えなきゃ大丈夫じゃない?」

「ティナ様、その場合、レベルアップの方法を我々が持っていることを知られてしまいますぞ」

「あ、そっか。それはまずいか…」

「……こういうのはどうでしょうか。功労者を招待して食事会を開き、大テーブルの下でこっそり魔核を破壊するのです」


ユーリアも案を出してくれるが、その方法もいまいちだ。


「それだと魔核の量が多いから、何段かレベルアップしちゃってレベルアップしたことに気付かれるんじゃない?」

「最初のころの我々と同じで良いのではないですかな。破壊する魔核の量を減らせば、レベルアップとは気づかれないのでは?」

「それだと何度も食事会に来てもらわなくちゃいけなくなるよ? あ! いっそのこと儀式にしちゃうか。功績のあった人に妖精から特別な加護を与えるとか。そうすれば身体能力上がっても加護によるものだって思ってくれるかも。万一レベルアップだと気付かれたとしても、加護によるレベルアップだって思ってくれるよね」

「妖精様の加護と嘘を言うことになりますので、妖精様がお怒りになりませんか?」

「あー、それもそうだね。ちゃんと妖精に相談してみるよ」

(そうだった! みんなは妖精信じてるんだった。いかんいかん)

「もしそうすれば、身体能力の上昇は妖精様のお力と言うことになりますので、褒美は渡した上で本当のレベルアップ条件を隠せますな」

「うん、相談してみる」


【ティナ、ナンセ村近くの森の調査で、スタンピードの原因と思われる現象を発見しました】

「お、何見つけたの?」

【森の中に、魔素が噴出している場所がありました】

「え゛? てことは、またスタンピードになるの?」

【いえ、大丈夫そうです。周辺の草木は植物としては異常な魔素量ですので、元々はかなり高濃度の魔素噴出だったと推測されます。ですが今は、噴出する魔素濃度が薄く、徐々に少なくなっています。しばらくは計測を継続しますが、計測開始からはずっと濃度・量ともに減少傾向ですね】

「やっぱり魔獣って、魔素異常による突然変異なのかもね。一応森内の観察も継続してね」

【了解です。あと、私から提案があるのですが】

「うん、何?」

【いっそのことクラウたちには妖精の正体をばらしてみては?】

「それはダメだよ。アルの存在を知ったことで、余計なトラブルに巻き込まれるかもしれないから。アルの存在を知ってる人は、少なければ少ない程いいと思ってるの」

【心苦しいのでは?】

「うん、友達に嘘ついてるからね。でも、これはアルという超技術の所有者となった私の義務だと思ってるから、仕方ないよ」

【別に私の存在がバレても、なんとか出来ますよ】

「それが怖いのよ! 権力者がアルを求めて兵を出したら、下手すりゃ死体の山じゃん!」

【周回軌道上に逃げれば、追っては来れませんよ】

「それじゃあアルが資源掘削できないじゃん! アルは資源を掘削するだけじゃなくて、誰かに供給して人々の幸せを守るのが存在理由でしょ」

【…改めてお礼を。ティナ、あなたは最高の所有者です】

「褒めてもなにも出ないから!」


顔を赤らめてそっぽを向くティナに、アルは通信に乗せずに何度も感謝した。

アルに課せられた使命は資源掘削と自認していた。

だがティナに、人に供給して喜ばれるまでが存在理由だと言われ、その通りだと気付かされたのだ。


アルの存在を隠すだけなら、ティナは自分だけのためにアルの技術を使えばいい。

しかしティナはアルの存在を隠そうとしつつも、アルが人のために役立てるようにと考えて行動しているのだ。


掘削した資源を加工して人々の生活に役立て、ドローンを使って物資を供給した人々を守る。

アルは、現状こそが理想なのだと理解した。

そしてその現状を与え続けようとするティナに、演算不可能な感謝を覚えた。


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