今度は拝金主義者が来た

二月三月は雪に覆われてはいるものの、さしたる変化の無い穏やかな日々が続き、領都は雪解けを迎えた。

街道や領都内では三輪ジーネが行き交い、経済活動も活発になってきた。

街道には所々に休憩所が設けられ、魔力回復のために休息を取る商人や荷運び人で賑わっていた。


実はこの休憩所、屋根材を模したソーラーパネル付きの小型ドローン用ミニ充電スタンド。

機数を増やして運用している小型ドローンの、連続運用時間延長用だったりする。

充電用の水車小屋が設置されている領都が領の東端なため、運用効率を上げる苦肉の策だ。


発電容量不足で中型以上の充電には対応出来ないものの、小型ドローンによる領内パトロール間隔は密になった。

これにより治安もさらに安定し、目立った問題も起きず、シュタインベルク領は平穏な春を迎えた。


【ティナ、西国の商人ギルドを名乗る集団が、クラウに謁見を申し出てます】

「商人ギルドって、商人を保護するとか言いながら、実際には商売を独占して利益を吸い上げてる集団だよね。うちには要らない気がするけど?」

【そうですね。他都市では参政権を持って都市を運営し、利益を吸い上げてます。今、アルノルトが対応してますので、映像を廻します】

「うん、お願い」


「ご領主様に謁見をお申し出とか。どのようなご用件ですかな?」

「我々商人ギルドは、商人や商売の保護を行っております。都市の運営に商売は不可欠。円滑な都市運営のために少しでもお役に立てればと、まかり越しました。ご領主様には、こちらの都市にも商人ギルドを開設いただきますよう、ご許可をお願いにあがりました」

「そのようなお話ですと、謁見は許可出来ませんな」

「…なぜでございましょう? 我々商人ギルドは、西国では都市の運営に深くかかわり、国王様からも厚いご信頼を得ております」

「都市の運営は領主家の専権事項だからです」

「ですから、我々はその手助けをさせていただきたいと考えております」

「つまり、領主家の権限の一部をよこせと?」

「いえいえ、決してそのようなつもりはございません。あくまで手助けにございます」

「では、全て領主家の命に従って頂けるのですね」

「…商人と商売の保護を目的としておりますので、さすがにすべてという訳にはいかないかもしれませんが、出来る限りご領主様のご意向を反映させていただきます」

「領主家の意向が反映出来ない場合があるのですね。それでは不都合が生じやすくなります。やはり謁見の許可は出せませんな」

「……失礼ながら、商売の事はやはり専門である我々にお任せいただいた方が、よろしいかと」

「ご領主様は人とのつながりを大切にしておられます。従って、領主家は出来る限り職人や商人と直接取引するように心がけております。端的に申し上げますと、間に立っていただくのは、邪魔になるだけです」

「やはり商売の事がお分かりでないご様子。それでは商売はうまくいきませんよ。この地の物をよそに運んで利益を上げる。それには間に入る人が必要です」

「やはりご領主様のご意向に真っ向から反するようですね。中間搾取を極力減らし、出来る限り物価を押さえるのがご領主様のご意向です」

「それでは商売は成り立ちませんよ」

「そうですよ。領主家とは領民の暮らしを守るためにあるのですから、商売する気はございません」

「では都市の運営資金はどうされるおつもりですか?」

「この硬貨、どう思われます?」

「何ですか急に。……随分と見事な作りのお金ですね。銅貨から金貨まで、どれも歪み無く精巧な意匠が施されてますな。これは素晴らしい…」

「この硬貨、妖精様が『自由に使え』と下さいました」

「……下さった?」

「ええ。ある日突然、山のように」

「……まさか、運営資金は勝手に出てくる?」

「はい。この城塞都市も、我々のためにと下さいました」

「そんな馬鹿なことが!? それでは都市もお金も勝手に湧いてくることになる! そんな場所では経済活動の意味が……」

「そうなのです。妖精様は争いを好まず、穏やかに楽しく暮らすことをお望みなのです。ですから我々『妖精の友民』は、自己の利益を最小限にしようとしております。それと、最後に申し添えておきますが、この都市運営で赤字になって妖精貨をお借りしたことはございませんよ」

「それではこのお金は山になったままということに……」

「通貨の切り替えでバンハイムの通貨と交換はいたしましたが、困ったことに山のままですなぁ」

「…」


商人ギルドの面々は、呆けた顔でふらふらと帰って行った。


「アルぅ、私、やばいことしちゃってたかも。アルノルトさんの経済観念がおかしなことになってる」

【いいえ。妖精貨は入って来たバンハイムの硬貨と交換して使ってますし、それ以外には手を付けていません。実際都市運営資金は赤字になったことは無いのですから、大丈夫なのでは?】

「万一災害対応か何かで領主家が在庫の妖精貨で支払ったら、妖精貨の価値が下がってインフレにならない?」

【それは信用通貨の場合です。妖精貨は本位通貨ですから、妖精貨自身に貴金属としての価値があります。とんでもない量を放出しない限り、価値の変動は微小ですよ】

「あ、そうか。妖精貨自体が金銀財宝だった。…でも私、この城塞都市あげちゃったから、やっぱり経済観念はおかしくなってるんじゃない?」

【あげてませんよ。建設費や提供した物の代金として、ちゃんと土地を受け取ってます】

「あ、そうだった」

【忘れてましたね?】

「…」


その後商人ギルドの面々は妖精商会で砂糖、岩塩、毛皮を買い占めようとして購入量を制限され、職人街では三輪ジーネで同じ目に遭っていた。


ならばと乗っている住人を止めて高額購入を持ち掛けるも『妖精様に×マーク食らっちまう』と拒否されまくっていた。

最後は無理やり金を押し付けて奪おうとするも、目の部分にしみるインク×マークを目に食らって転げまわり、住民に『だから言ったのに』と憐れまれた。


強引な事をするたびに目にしみる×マークを食らい、商人ギルドの面々は、やっと妖精の存在を信じた。

這う這うの体で城塞都市を出た面々だったが、妖精の存在は城塞都市内だけだろうと懲りずに道中でも同じことを繰り返し、シュタインベルク領を出る時には目を真っ赤に充血させて周囲の人に気味悪がられていた。

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