移動手段の変化

領都にスノーボードや箱そりが普及すると、魔力切れで倒れる子どもたちが出始めた。

ティナの授業では使用時間を制限していたので問題無かったが、スノーボードが各家庭に行き渡ると、遊びに持ち出す子どもが増えた。

大人たちは魔力不足による体調の悪化を感じて使用を控えるのだが、子どもたちは限界を忘れて遊び、結果魔力切れで倒れるのだ。


しばらくおとなしくしていれば徐々に回復するのだが、雪の中で横たわったままだと風邪を引いてしまう。

これはまずいと、ティナは魔力の早期回復の研究を始めた。


結果、二種類の方法を確立したのだが、即効性の高い魔核からの魔素吸収は情報自体が危険と判断され、お蔵入りになった。

仕方なく、ティナは魔力充填ポーションを開発し、マナポーションとして売り出した。


ところがこのポーション、大人たちにバカ売れした。

最初は子どもたちのために大人が買っていくのだとティナは思っていたのだが、買っていく面々の多くが行商人ばかりなのだ。

不思議に思ったティナが聞くと、なんと村々の移動に箱そりを使うことで、冬場の交通網が出来上がっていた。

楽に移動出来る上に、馬車などと違い個人所有が当然で馬の餌や世話も不要。

マナポーションを間接燃料にした、安価で買えるマイカーなのだ。


知らないうちに、伯爵領と領都との交通網まで出来ていた。

シュタインベルク領は領都が一番奥に位置するのだが、行商人は何本もマナポーションを飲んでまでして箱そりで買い出しに来ていた。


原因は妖精商会の商品。

良質の砂糖や岩塩、魔獣の毛皮、マナポーションはここでしか売っていない。

加えて砂糖や魔獣の毛皮は高額なため、買い取り資金が貯まるたびに、何度も商人が買いに来ていた。

マナポーションは、もはや携行ガソリン扱いだ。


マナポーションの作製に追われはじめたティナは、慌ててポーション工房でマナポーションの作製を指導した。

そして次に来るであろう無積雪時のマイカーブームに備え、木工職人たちに木製三輪型ドライジーネの設計図を渡した。


この三輪、日本の三輪自転車を真似て、荷台部分を大きくしたものだ。

設計は当然アル。木のしなりを利用した、衝撃吸収機能まで備えている。


木工職人たちは沸いた。

箱そりとスノーボードだけでも、自分たちの工房が持てるほど売れたのだ。

今度は雪のいらない個人的移動方法。もう売れる未来しか想像出来ない。


箱そりより作りが複雑なので高くはなるが、馬車程高価ではない上に馬を飼う必要もない。

箱そりづくりが落ち着き仕事が減って来た木工職人は、雪の無い季節を前に不安を抱えていた。

だが、これで自分たちの仕事は通年求められることになる。


設計図を渡してから一週間もしないうちに、第二城壁一階を走る三輪ジーネの姿があった。

そしてその姿を見た商人たちは、こぞって注文した。

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