やばい情報だった 1/2
新年を迎え、ティナは七歳になった。
この世界、冬場の貴重な食料浪費など以ての外なので、パーティーとかは無く、新年は家族で穏やかに祝う。
ティナは領主家の夕食会に招待された。
新年三が日は行政機関や商店も休むため、街はひっそりとしている。
この日は朝からカーヤがベルノルトを迎えに旧都に行ったが、昼前に領都に到着したベルノルトは、完全にグロッキーだった。
往復所要時間から見れば、おそらくカーヤの箱そりの平均時速は60km/hほど。
時速60kmのアルペン箱そり体験は、さぞきつかったであろう。
「ベルノルト。おぬしは修行のやり直しじゃ!」
アルノルトの言葉に、ベルノルトの顔色はさらに悪くなった。
「カーヤ、あなた飛ばしすぎではないの?」
「ユーリアさんひどい。ベルノルトさんが騒ぐから、スピード落として滑ったのに…」
「そうだったの? そうなるとベルノルトさんには箱そりが合わないのかしら」
「この人、平原をまっすぐ走ってる時からヒイヒイ言ってましたよ」
「そう。やはり合わないみたいね」
「やはり再修行じゃ!」
先々代子爵家時代に、ベルノルトも何度か魔獣討伐に参加してはいる。
カーヤとの違いは魔核の破壊だ。
魔核を破壊すればレベルが上がり、魔法だけではなく身体能力も向上する。
旧廃村組は当初魔核の破壊方法をティナから教えられ、譲られた魔核をせっせと破壊していた。
譲られた魔核は、初心者にも破壊可能な弱い魔獣の物だ。
その後の廃村組にとって、森で狩りをしたら、後で魔核を取り出し破壊するのが常識になっていた。
しかも最初は弱い魔獣と遭遇するようにアルが誘導していたため、レベルアップしているという自覚が無かったのだ。
初顔合わせとあって同席していたティナは、可哀想になってベルノルトを擁護した。
「あの、さすがにベルノルトさんが可哀そうかも。みんなはレベルアップしちゃってるけど、ベルノルトさんはしてないよね?」
「は? レベルアップですと!? まさか我らは、魔物狩人の一部の者だけの特権と言われる、あのレベルアップをしておるのですか!?」
「あ、説明してなかったっけ? 魔核を破壊すると魔核に含まれる魔素量に応じてレベルアップするんだよ。あ、魔素って言うのは魔法の元になる、見えないちっちゃな粒の事ね」
「……廃村を四人で生き抜くには少しでも体力があった方が良いからと、魔核を譲られて破壊方法をお教えいただいたと記憶しております。我々は、魔核を破壊することが身体に良いのだろう程度の認識でした」
「あ、レベルアップって言ってなかったか。ごめんなさい」
「……ティナ様、レベルアップとは魔獣を狩り続けた一部の超人のみに許された、神の恩恵と言われておるのですぞ」
「え、そんな事無いよ。魔核壊せば誰でもレベルアップするから」
「ティナ、わたくしたちは妖精様の助力で魔法が強化されていると思っていたのですが……。本当にレベルアップしているのですか?」
「うん。魔力量は村に来た当初の五倍くらいになってるよ。カーヤさんは狩りを続けてたから、七倍くらい」
「…その、魔力が五倍と言うのはどういう状態ですの?」
「魔法が五倍使えるか威力が五倍になる。簡単な魔法なら魔力の活性無しで使えるよ。身体能力も流れる魔力量によって向上するから、通常時でも元の二倍以上あるんじゃないかな」
「ティナ! あなたがわたくしたちのために一方ならぬ助力を頂いているのは存じておりましたが、これは、これはぁ…!」
「あ、あれ? 私、なんかとんでもないことしちゃった? みんなレベルアップなんてしたくなかったの?」
「違いますぞティナ様。頂いたものが大きすぎるのです。人を超人に変える魔物狩人の秘術を『少し体力上がるから』と簡単に我らにお渡しいただくなど、我らはいったい何をお返しすればよいのか…」
「いや、お返しなんて要らないから。私がみんなに健康であって欲しかっただけだから」
「…はぁ、これがティナなのですね。妖精様が気に入られるはずですわ」
「え~。クラウだって自分が知ってることで相手が助かるなら、教えるでしょう?」
「知識の希少性と有用性が違い過ぎです!」
「さようでございますな。このような情報を悪用すれば、無敵の軍隊が出来てしまいます」
「そうかな? 公表しちゃえばみんなレベルが上がって元気な上にお仕事楽になるし、魔獣も減ってお得じゃない?」
「……その夢のような可能性も確かにございますが、世間に与える影響が大きすぎます。下手をすると我先に魔獣を狩ろうとして死者が増えるか、魔核を横取りしようとして争いが起きてしまいますぞ」
「ああ、そっち考えて無かった。まずいかも…。あれ? こんなやばい情報、なんで権力者たちは求めないのかな?」
「何度か秘密を探ろうとはしたようですぞ。しかし、魔獣狩人たちは秘技として明かさず、法外な金額でやっと聞き出した方法でも、詳細は伏せられておりますが、実験に参加した者では無理であったと。魔獣を狩る騎士団員や兵士の中にもごくまれにレベルアップするものがいるようですが、他の者がいくら魔獣を狩っても、レベルアップしなかったと聞き及んでおります」
「ああ、多分魔核壊してないか、壊す人のレベルと壊す魔核のレベルが合ってなくて壊せなかったんだろうね。運良くレベルアップした人は、多分弱い魔獣倒す時に魔核もキズ付けちゃったんだね」
アルが魔の森で入手したレベルアップ関連の情報は、どうやら魔獣狩人の極秘情報だったらしい。
森の中で狩人が魔核を破壊するところをドローンが見ていたのだが、魔の森の中で行っていたこと自体、秘密を守るためだったようだ。
しかも国が大金を積んでまで欲しがる情報。
思った以上に危険な代物だった。
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