妖精商会

十二月に入ると、ティナは商会を設立した。

冬前に移住者が急増したため、物資が足りていないと感じたからだ。

屋号は妖精商会。

肥料、パン酵母、砂糖、塩、小麦、野菜、干し肉(ジャーキータイプ)、ポーション類、ふとん、毛皮を、人を雇って販売しだした。


実はこの商品、ほとんどがアル製。

アルは掘削物から抽出したリン酸とカリウムが増えたため、空気から窒素を取り出し、肥料化していた。

まあ、肥料は来年春まで売れないだろうが。


また、岩塩も大量に採掘していたので、これも倉庫整理とばかりに売り出したのだ。


パン酵母は住民の自作では品質が安定していなかったので、ティナが欲しがってアルが製造していたものだ。


小麦と砂糖は、他の商店と同様に領主家から固定価格で販売を委託された。


各種ポーションは、当然ティナ製だ。


野菜は、ティナが『冬も新鮮野菜が食べたい』と言うので、アルがアオラキの地下に野菜畑を作った。

アルが野菜の正確な成長データを録るために、n数を多くし過ぎて余っていたものだ。


ふとんは、アルが用意していた綿製品用の原料を布に詰め込んだだけ。


干し肉や毛皮は、ティナの自宅周辺の安全性確保の結果、在庫がどんどん溜まって行くので商品として売り出した。


つまり、ほとんどの商品が過剰在庫の放出販売なのだ。当然売価も安い。

ところが、味や品質が良く安い商品に、住民ばかりか領都を訪れていた行商人までもが群がった。


試食や試飲などしていないのだが、ティナがロゴ代わりに商品に入れた妖精マークに、住民たちは絶対の信頼を置いたようだ。

これほど売れても、そう簡単には在庫は無くならないが…。


妖精商会が販売する商品の中には他の商店とかぶる物もあったので、ティナは良さそうな毛皮を事前に各商店へ配った。

店主からは『巫女様は商売に向きませんね』と、優しく頭を撫でられた。


それもそのはず。ティナが持って行った毛皮は、値段は分からずともどれも一目で一級品とわかる品々。

それを『これ、迷惑料代わりに貰って』と、ほいほい渡していくのだ。

商売人である店主たちに同情されても仕方がない。


ティナは在庫数の少ない毛皮を商品にしたら売り切れた時申し訳ないのでお使い物に廻したのだが、数が少ない=強い魔物の希少品だとは考えていなかった。確かに商人には向いてない。

ちなみに、死与虎の毛皮は一品物だったために、クラウに進呈した。

後でその毛皮を見せられたアルノルトは、危うく失神しかけたが。


ティナは領主館に私室を貰っているしポーションは自宅で作れるため、町のポーション工房を領主家に寄贈した。

メイドのユーリアとカーヤはポーション作りを習得していたが、ユーリアが領主館のメイド長になったため、カーヤが一人でポーション作りと大人への狩りの指導を担当していた。

カーヤの担当範囲が広いため、カーヤの教え子たちに工房でポーションを作ってもらおうと考えたのだ。

使用条件は、後進を育てること。

これでカーヤの負担も、幾分かは減るだろう。

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