新生シュタインベルク、急速に発展 2/2
十一月。移住者の増加が、また加速した。
領が新生シュタインベルク自治領となり、城塞都市が正式に同じ領内になったために、さらに移住者が増えたのだ。
二か月前までは城塞都市は同じ領内と認識されておらず、存在もうわさの域を出なかった。
それが領内と公表されただけでなく、新たな領都となり、妖精に守られた堅牢な城塞都市だと分かったのだ。
しかも作られて一年も経っていない、居住に余裕のある大型の城塞都市。
家を継げない農家や職人の次男三男、独り立ちをしている男性を結婚相手に望む未婚女性たち、女性でも手に職を付けたいと願う女性たちが、こぞって移住してきた。
結果、領都の人口は三千人を超えた。
小麦はこれまでの移住者が物納したものがある上に、新しい移住者も小麦を物納したので、来年の夏まで食糧は余裕で廻せる。
問題は衣類や家具だが、今回は職人や見習いも多く移住して来ているので、何とかなりそうだ。
材料の乾燥した木材や布は、多分妖精(アル)頼みになるだろうが。
新規移住者に住居の希望を聞いたところ、大半が第二城壁内部を希望したので、外に出なくても移動できる分、薪や防寒着も少なく済みそうだ。
多くが第二城壁内部を希望したのは、今までに無い建築様式と、天候に左右されない移動性、そして職場になる可能性がある店(第二城壁一階)が近いことだった。
今はまだ第二城壁一階の店舗は未入居なのだが、商店の多くが第二売り場を申請しているので、冬場の生活もしやすいかもしれない。
また、第一城壁内部の兵士用個室に仮入居している単身者も、第二城壁内部に引っ越しを始めている。
商店が第二城壁一階に揃えば、第一城壁内地が大家族用一戸建てエリア。第一と第二城壁の間が畑と放牧エリア。第二城壁内部が単身者・小家族用マンションになってしまいそうだ。
だが、これ以上移住してこられると、既存の村々が衰退しかねない。
なにせインフルエンザの猛威で人口が減ったところに、旧領内の15%以上の人がこの領都に流れて来ているのだ。
旧領内の労働人口は、一年前に比べたら30%以上減っているだろう。
そこで、今後の移住には審査が入ることになった。
まずは現在居住する村の村長に移住申請を出し、離れる村の労働力を考慮した後に移住可否が決定される。
これから冬が始まることもあり、これで移住者も落ち着くだろう。
城塞都市には教会も建った。
辺境では村に教会が無いのが当たり前で、冠婚葬祭は村長の家の前か、共同の広場で行われる。
牧師なんていないから、村長が適当に儀式を行うのが常だ。
結婚予定のカップルがいると聞いたティナが、冠婚葬祭の場があった方がいいよねとクラウに相談(通達?)して、第二城壁の城門から領主館への幹道近く、少し放牧場に入った場所に出来上がったものだ。
教会の外観は、大きめの平べったい丸石を積み上げた楕円の円柱形。
自然石をそのまま積んでいるため、直線部分がほとんどない。
扉や窓はすべてアーチ型で、平らな屋上の端には石積みのキノコ型鐘楼がちょこんと立っている。
屋上は若干起伏のある苔庭のようで、キノコと花のフェアリーリングもある。
見た目はまるで妖精のおうちだ。
教会は第二城壁内の放牧エリアの端に位置しているため、周りは牧草と樹木。
この一画は、おとぎの国(ぬく〇りの森?)のように見える。
教会内部はすべて木造で、妖精ランタンが多く吊るされている。
奥の壁には妖精の王女を象ったステンドグラスがあり、椅子は皮を剥いて磨いた丸太製だ。
教会のお披露目と住民の結婚式を同時に行ったため、とんでもなく盛大になった結婚式に、新郎新婦は恐縮しきりだった。
ティナがノリノリで儀式を進行し、巫女衣装で巫女舞まで披露したために、ティナは妖精の巫女と呼ばれだした。
そしてこの教会は、妖精教会と呼ばれるようになった。
支配的なバンハイムの教会思想を定着させない思惑もティナにはあったが、妖精教会、妖精の巫女という目に見える崇拝対象を得てしまった住民らは、新たな自然崇拝宗教『妖精教』を産み出してしまった。
日々周りの自然に感謝して、暇があると教会のステンドグラスに祈りを捧げる。そんな穏やかな宗教だ。
当初妖精教会は冠婚葬祭以外無人の予定だったが、祈りに来ては掃除をして帰る人々で、いつでも人がいる教会になってしまった。
実りの秋を迎えて穏やかな時間が流れる新都、その周辺の秋の森では果実や木の実、丸々太った野生動物が収穫され、着々と冬支度が進んでいた。
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