親子漫才?

突然クラウたちの前に、やせ形の中年男性がホログラムとして現れた。

「な! 父上! お嬢様!? なんとお労しや、やはり黄泉の国に旅立たれておられましたか」

「このたわけが! お嬢様に失礼なことを言うでない! わしもお嬢様も、ピンピンしておるわ!!」

「え?…。しかし、星の影響病に罹った四人で廃村に追放されてから、もうすぐ一年ですよ。廃村でご存命とのうわさもございましたが、うわさを信じて前子爵が派兵した兵たちは、死霊に襲われて逃げ帰って来ました。死して死霊を操られたのでは?」

「阿呆! あれは妖精様のお力じゃ。今も妖精様のお力を借りて、新都から話をしておるわ!」

「王国の使者がお嬢様のご領主就任と子爵位受爵を通告してまいりましたが、一向にお嬢様はいらっしゃいません。これはやはり覚悟を決めねばと…」

「バンハイムの要求など蹴ってやったわ! そちらに行けぬのはこの都市の運営に忙しかったからじゃ!」

「なら、せめて手紙くらい下さいよ」

「ぬ、それはすまぬ。忘れておった」

「耄碌しすぎだろ」

「なんじゃとぉ!?」

「ぷ、くふふ、あははははは。もうだめ、これ、おかしすぎて我慢できないわ。あははははは」


お腹を押さえ、机をてしてし叩きながら、笑い転げるクラウ。


「お、お嬢様、はしたのうございますぞ」

「だ、だってあなたたち、私が家にいたころのままじゃない。よくそんなやり取りして、わたくしを笑わせてたわ」

「お嬢様を笑わせるためではございませんぞ。こ奴がとぼけたことを言いおるので…」

「あ゛? それは父上の方だ。毎日毎日何かにつけてグチグチと…。これだからジジイは始末が悪い」

「なんじゃとー!?」


また始まった親子喧嘩(漫才?)に、クラウはお腹を押さえて机に突っ伏す。


「あの~。すごく楽しそうなんだけど、話が全然進んで無いよ」

「はっ! そうじゃった。ベルノルトよ、大切な話があるのだ。心して聞いてくれ」

「あの、今のはどちら様で?」

「じゃから大事な話があると言うに…。こちらのティナ様が妖精様と我々を仲介してくださったおかげで、妖精様の秘薬をお分け頂き、我々四人を星の影響病から救っていただいたのだ」

「なんと! 妖精の秘薬!? 星の影響病を治した!?」

「そうじゃ。一時間せずに完全回復じゃ」

「い、一時間!? もしそれが本当なら、とんでもない薬ですよ!?」

「えっと、薬のことは一応内緒なので、秘密にしてもらえると助かります」

「そ、そうですわね。くふ。あの薬の存在が世間に漏れれば、薬を欲した権力者によって戦が起こるでしょう。ベルノルト、絶対話してはいけませんよ」


クラウは、なんとか笑いのツボを脱したようだ。


「承知しました。お嬢様や父上、同僚のメイド二人の命をお救い頂いたのです。絶対に他言いたしません」

「ありがとう。さすがアルノルトさんの息子さん、誠実だね」

「あ、いや、そのようなことは…」

「ベルノルト、あなたが変わらずにいてくれて嬉しいわ。でも、そろそろ本題を話さないと、シュタインベルク領が大変な事になるわ。執務室に家の主だった者を集めてくれる?」

「この領が大変な事に…。承知しました、すぐに集めます」


返事と共に、一礼して駆けていくベルノルト。

ドローンは、こちらの映像を消して執務室に先回りだ。

やがて家臣たちが執務室に集まった。


すでにドローンが、執務机に着いたクラウと両脇に立つアルノルトとティナを映し出している。

皆は執務室に入るまでにベルノルトから説明を受けていたらしく、部屋に入ると映像のクラウに驚きつつも礼を執った。


「皆、お久しぶり。本当は再会を喜びたいところだけど、今はそれどころではないから、要件を話します。まず、シュタインベルク領は、バンハイム王国が領有権を放棄しました。つまり今ここは、バンハイム王国から見て国外なのです。しかも誰も領主がいない状態ですので、このままではこの領が無法地帯になってしまいます。そこで、シュタインベルク家の直系であるわたくしが領主を務めることにしました。現在わたくしは授爵しておりませんが、問題はありませんか?」


クラウの問いに、ベルノルトは家臣一同を見回し、やがて代表するように話し始めた。

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