妖精王、怒る
ティナの予想に反し、国王と宰相は密談を画策した。
石造りの窓の無い小部屋に使者と三人で籠り、まずは使者に妖精王の悪口を言わせた。
何の反応も無かったことに国王と宰相は安堵し、旧シュタインベルク領を隣領の伯爵に与える対価に、城塞都市を攻めさせる方向に話が向いた。
「他所での悪言程度で罰は与えぬが、人族の王とは自分の言うたことにも責任が持てぬのか? 戦を望むならここではっきりと申せ。褒美にこの王城を吹き飛ばしてやろう」
突然響いた声に、驚き固まる三人。
最初に復活したのは宰相だった。
「ち、違いますぞ! 我らはシュタインベルク領の借財を王と話し合っておっただけにございます。決して戦など望んでおりませぬ!」
慌てて弁明する宰相。
だが、他国に割譲したはずの土地を自国の伯爵に与える話をしておいて、言い逃れようとするなど不可能だ。
「言行不一致も大概にせよ!」
一喝と共に部屋を埋め尽くすほどのリアルな人型妖精が空中に現れ、一人の妖精が、持っている杖を部屋の隅にあった花瓶に向ける。
花瓶は、一瞬放たれた閃光と共に爆散した。
「ひ、ひいぃ!!」
元使者が半狂乱になり、近くの妖精を払いのけようとした。
しかし、腕は妖精をすり抜けるばかりだ。
「愚かな。妖精の実体は人の世には無い。人が害を成すことなど出来ぬ」
王と宰相は身を強張らせ、腕を振り回す元使者と床に散乱した花瓶を見ていることしか出来ない。
「次は花瓶ではなく貴様たちだ。努々忘れるなよ」
精霊王の言葉と共に、妖精は消えた。
部屋には、頭を守って床にうずくまる元使者と、立ちすくむ国王と宰相が残された。
「あー面倒っちかった。まさか、暗殺される危険性あるのに手出ししようとするなんて思わなかったよ」
【なぜ伯爵にシュタインベルク領を与えようとしたのでしょう?】
「シュタインベルク領を妖精王国に割譲すると上納金減っちゃうじゃない。伯爵に与えれば、トータルの上納金は減らないよね。で、伯爵にここを占領させれば、自分は派兵しなくて済む上に領土割譲も無しになる。そして城塞都市を追加領地として伯爵に売るの。自分の懐は痛まずに労力も無く、上手くすれば城塞都市の代金分収入が増えるって考えたのかも」
【なんですかそれは。自分は何もせずに他人の力や物でお金を得る気ですか。正気の沙汰ではありませんよ】
「国の上層部ってさ、民からお金が集まるのを当り前と思うようになったらやばいよね。世襲君主制なんて血筋で引き継ぐだけでお金が集まって来るんだから、不労所得を相続した程度にしか思えないんじゃないかな。で、吸い上げることばかりに夢中になって、最後は払ってる側がブチ切れるの」
【今回のシュタインベルク領が、まさにその通りですね。夜逃げだけで反乱にならなかった分ましですか】
「ここがあったからね。逃げる先が無きゃ反乱起こしてたでしょうね」
【統治って難しいですね】
「そうね。私は他人から託されたお金なんて、怖くて触りたくないよ」
【統治者には向きませんね】
「うん。妖精王国は国民ゼロで良かったよ」
【ティナや私が国民では?】
「…家族単位くらいなら、何とか頑張れるから」
【了解です。でも、今回はこの町と妖精を代表して交渉しましたよね? 交渉というより、一方的な通告でしたが】
「……やば、勝手しちゃった。シュタインベルク領をどうするか、クラウたちと相談しなきゃ」
【はい。本来の統治者に考えてもらいましょうね】
ティナは、王城での出来事と、シュタインベルク領が妖精王国に割譲される可能性をクラウとアルノルトに映像付きで報告した。
しかし、まだバンハイム王国はシュタインベルク領の割譲を公表していないため、王国の動き次第で臨機応変に対応できる体制づくりをすることになった。
ティナは万一の場合に備え、シュタインベルク領の領民の避難所として新都拡張を進言。認められたのでアルと共に第二城壁づくりに着手した。
拡張計画の新都構想では、居住最大人数二万人。
シュタインベルク領の住人が二万人ほどなので、これだけ広ければどう転んでも対応できるだろうという、なんともおおざっぱな計画である。
だが、この時代に二万人が常時居住可能で、城壁内に畑や牧場まで持つ規模の城塞都市など存在しない。
バンハイム王都は十万人都市だが、まともな城壁を持つのは貴族区画と王城だけだ。
一方で城塞都市シュタインベルクの第二城壁拡張案は、城壁の高さ幅とも20m。
内部は五階建てマンションの二階から五階が住居、一階は日本の地下街のような店舗付き通路、外壁側は兵士用宿舎と通路、地下は下水施設だ。
川から藤原式揚水機を使っで揚水し、屋上の浄化施設で浄化した上水道まで各戸に引かれている。
イメージは、まるで五階建てマンションを円形にくっつけて並べ、城壁代わりにしたような形だ。
現代日本の感覚の方が勝っているティナの設計なので、上下水道、水洗トイレ、個室完備、お風呂は必須など、この時代にはありえない設備だ。
アルは過剰仕様に気付いていたが、気付かぬティナを止めることなく着工した。
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