暴君育成?
「アル、敵性生物排除用のドローン、要らなくなりそうだね。内緒話しないようにしばらく監視はしたいから、もう少し監視だけお願い」
【了解です。密談で方針変更されませんか?】
「監視はするけど、多分しないと思うよ。いつでもどこでも暗殺される可能性に気付いたみたいだから、暗殺されるリスクを冒してまで密談はしないでしょ」
【プライドの問題で仕掛けて来たりしませんかね?】
「妖精王を怒らせて自分たちの城を攻撃されそうになったことを知ってるのは、バンハイム側は使者の三人と国王、宰相だけ。黙ってればプライドは傷付かないからね」
【使者は妖精王に報告に戻るのでは?】
「多分あの三人は病気になって来れないと思う。何も知らない新たな使者が、手紙でも持って来るんじゃないかな」
【使者たちは病気になるのですか? そんな兆候はありませんよ】
「兆候は国王と宰相の顔色」
【なぜ他人の顔色が使者の病気の兆候になるんですか?】
「情報の漏洩防止に始末しちゃいそうな顔色だもん。王国の醜聞は広めないのが当たり前。醜聞の内容知ってる者がいなくなれば、醜聞は漏れないよね」
【なるほど、病死として処分されるわけですか。その場合、ティナは心が痛みませんか?】
「残念な事に全く痛まないよ。権力や武力をかさに着て理不尽押し付けるようなのには、理不尽が倍返しされればいい。前世では理不尽な人を見ると悲しかったけど、今世では激しい怒りが湧くの」
【残りの二人もですか?】
「あの時、止めようともせずに当たり前の顔して薄ら笑い浮かべてたんだから同罪だよ。アル、私って優しくない所有者でゴメンね。多分私の理不尽耐性はもうゼロなんだ。あの修道院で、私は人としての何かを失ったのかもしれない」
【訂正を要求します。私はティナのメンタルを心配しただけで、優しくないなどとは微塵も思ってません】
「…ああ、私が気に病むのを心配してくれてたのか。ごめんなさい。気にならないことがおかしいと自分でも思ってるから、精神疾患を心配されてるのかと勘違いしちゃった」
【いいですか。私はティナの所有物であり、ティナのために存在しているのです。これは絶対条件ですよ】
「おおう、怒らせちゃったね。ほんとにごめんなさい。絶対条件はちゃんと覚えたから」
【忘れないでくださいよ】
「分かった。でも、アルも覚えといて。もし私が非人間的な行動をとり始めたら、ちゃんと止めてね。私はそんな人間になりたくないから」
【…】
「ちょっと、なんで返事しないのよ? …ハッ! まさか私を暴君にでも育てるつもりなの!? そんなの絶対幸せになれないからね!!」
【…】
「コラー! 返事してー!!」
【…】
その後、呼びかけてもそっぽを向いて返事を返さなくなったティナに、アルは早々に白旗を上げた。
しっぽに、ごめんなさいと書かれた白旗を括り付けて土下座するレッサー君を視覚レイヤーされ、ティナは飲んでいた紅茶を吹き出した。
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