妖精王国?
廃村初期メンバー全員にいい笑顔で頷かれたティナは、半泣きで領主館の修繕に入った。
自分が示威行為のために溶かしてしまったのだから、直すのは当然である。
ティナはドローンに乗っかり、外壁を補修しながらアルと相談していた。
「アルぅ~、私妖精王陛下になっちゃったよぉ…」
【おや? ご自身でそう名乗ってましたよね?】
「あれはお芝居だから!」
【では、これからもお芝居でよいのでは?】
「……理不尽な物言いに切れちゃって、後先考えずやらかしちゃったんだもん」
【やらかした自覚があるのなら、責任は取るべきでしょうね】
「あう、そうなんだけどさぁ…。さっきの×マーク、いつ頃消えるの?」
【深達性Ⅱ度の熱傷ですので、完治には三、四週間かかります】
「王都に戻るまではなんとか残ってるか。さっき出てった奴ら、追跡はしてる?」
【はい。小型ドローンを一機付けてます】
「バンハイムの王都にもドローンあったよね?」
【情報収集用の小型ドローンが一機です】
「あいつら、きっと帰ったら自分の失敗棚に上げて、こっちを悪く言う気がする。もう少し王都の偵察体制上げられる? ある程度武力行使できるようにもしたいの」
【では小型ドローン三機と、敵生生物排除用のドローンを一機廻しましょう】
「あれって直すの後回しにしてなかったっけ?」
【雪解け水の水力と夏季によるソーラーパネルへの光束密度上昇で電力供給がさらに好転したので、一応修理しました】
「おお。夏、ありがたいな。それとね、アルは妖精王国を公言しちゃった場合のリスクって計算できる?」
【人の感情という不確定要素が多すぎて、算出結果に信頼性がありません。ですがアルノルトの話は、蓋然性が高めだと判断しました。また、武力を持った妖精王国の設定は、ティナと私の隠れ蓑には有効だと思います】
「とんでも武力を持った正体不明の国家か…。確かに拠点守るには有効だよね。でも領有権主張しちゃったら、魔獣を何とかしろって言われそうだよなぁ」
【それは人が定めた義務ですよね。我が国は我が国の法に従えばよいのでは?】
「我が国って…。ん? 妖精は人じゃないから、妖精の法に従えばいいのか。妖精の法って、つまり私たちの都合でいいって事?」
【はい。ティナの行動から、そうするのかと予測していました】
「え? 私、そんなことしてた?」
【はい。理不尽な要求と使者の不敬だけでバンハイムの王城を攻撃するようでしたので、王城へのミサイル攻撃を準備中でした。あれはこちらの都合を押し通す行動だと認識していましたので】
「げ!? あれはただの脅しだから!」
【使者が態度を改めなければ、光の矢を発射するつもりだったのでしょう? それに合わせてミサイルを発射しようと考えていたのですが】
「距離による減衰を理由にして、ドローンにバンハイムの王国旗をへし折ってもらうつもりだったの! 間違ってもミサイル打ち込む気なんて無かったから!!」
【最終発射命令は当然確認しますよ】
「あ、危なかったぁ…。えっと…、つまり妖精王国の法は私たちに都合がいいように作れる。人の法には縛られないってことでいいのね」
【はい。ティナの呼称も妖精王陛下に改めますか?】
「それは止めて!!」
【了解です。ティナ、後ろを見てください】
「ん、後ろって何?…みんな集まって来てるけど、何事!?」
【おそらく先ほどの光の矢が原因でしょうね。あれほどの光量を放っていたのですから、住民が何事かと集まったのでしょう】
「今私、消えてるよね?」
【はい。皆からは見えてませんよ。ああ、クラウがバルコニーに出てきます。説明をするのでしょうね】
「げ、領主であるクラウを見下ろしちゃってるよ。インビジブル、絶対解除しちゃだめだよ。あとクラウの声を拡声してあげて」
【了解です】
「皆さん、落ち着いてください。先ほどの光の矢について説明します」
領主館だけでなく、町全体にクラウの声が響く。
クラウは一瞬驚いたものの、微かに笑みを浮かべて説明を始めた。
「先ほど、バンハイム王国国王の使者を名乗る者がわたくしに引見しました。
使者はわたくしに、バンハイム王国に属するシュタインベルク領の領主にしてやるからと、領全体の上納金と隣領への借財の支払いを要求しました。
勝手にわたくしを自国内の領の領主に指名し、領の借金を払えと言ったのです。
その話を妖精界から聞いておられた妖精王陛下が謁見の間にご降臨なされ、要求を却下なさいました。
そうすると、こともあろうにバンハイムの使者は、妖精王陛下を罵ったのです。
そしてさらに、妖精王陛下の加護を受けたこの町を攻め滅ぼすと言い放ちました。
妖精王陛下はお怒りになり、その使者の言葉を宣戦布告と受け取って、即座にバンハイムの王城を破壊せんと光の矢を出現なされました。
先ほどの眩しい光は、妖精王陛下の光の矢によるものです。
しかしわたくしは、一介の使者が言った言葉に妖精王陛下自らがお力を振るわれるなど畏れ多いと、ご翻意をお願いしました。
使者が妖精王陛下のお力を見て自分の愚行に気づき平伏したことで、妖精王陛下は光の矢を消してくださいました。
そして使者に、バンハイム王国国王の真意と戦意を確認するよう申し渡しました。
今回このような事態になりましたのは、わたくしが奉じるのは妖精王陛下であることを宣言していなかったためと思われます。
ですので、今ここではっきりと宣言いたします。
この町の領主であるわたくしがお仕えするのは妖精王陛下です。
そしてこの町は、妖精王国所属の自治都市シュタインベルクです。
まことに残念なことながら、妖精王国の国民になれるのは妖精だけ。
ですからわたくしたちは、妖精様より加護を受けた妖精王国所属の自治都市シュタインベルクの住民として、この地にありつづけるのです」
「よくぞ申した。其方らが我ら妖精の存在を蔑ろにせぬ限り、妖精の友として加護を与え続けようぞ」
突然響いた声と共に、空中には羽根を生やしたいかにも妖精的な半透明の光が数多く舞った。
二枚羽根の者、四枚羽根の者、蝶のような羽根の者、羽根の種類は様々だが、共通しているのは10cmほどの体長で三頭身、みなかわいくデフォルメされた容姿だ。
女の子や男の子、猫やキツネ、リスやレッサーパンダまでいる。
あまりの幻想的な光景に、住民たちはみな恍惚とした表情だ。
捕まえようとした男の子もいたが、その手は妖精をすり抜け、妖精はその場であっかんべー。
男の子は、他の子どもたちから叱られていた。
【ティナ、これ、いつまで続けます?】
【困った。盛り上げようとしてとっさに始めたけど、締めを考えて無かった。どうしよう…】
ティナは即興でアルに妖精たちのホログラムをリクエストしたものの、引き際が分からず、ちょっとおろおろし出した。
そんな時、アルノルトがクラウに耳打ちした。
「みなさん。今は妖精王陛下のお力で妖精様が見えますが、そう長くは続きません。お姿が見えているうちに、日ごろの感謝を伝えましょう」
クラウの声で、妖精たちに感謝の言葉を伝えだす住民たち。
妖精たちはくるくると輪を描きつつ一斉に空に舞い上がり、手を振りながら消えていく。
「みなさん、このように妖精様たちはわたくしたちの身近にいます。たとえ普段は見えずとも、わたくしたちの友はいるのです。そしてこの城塞都市は、所属する妖精王国の友に守られているのです。その事を忘れないでください」
可愛くカーテシーして下がるクラウ。
住民たちは幻想的な光景の余韻に浸り、みな笑顔だった。
【ふぅ、ナイスアシストだよクラウ】
【アルノルトが、収拾がつかないことに気付いたようでしたね】
【さすが年の功、やるな。アルはお疲れさま。即興なのに良くやってくれたよ】
【あれらはすべてティナの記憶にあったものですよ。個別に動かすのに少しマシンパワーを使いましたが、モーションプログラムもティナのイメージから組み立てたので、直ぐに出来ました】
【そっかぁ、アルってほんと有能さんだねぇ】
【恐縮です】
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