やっちゃった……反省

「クラウ、ごめんなさい。私、おもいっきりやらかしちゃった」

「ティナのせいなどではございませんわ。妖精王陛下を見くびったあの者たちが悪いのです。うまく立ち回れなかったわたくしにも責任がございますわ」

「ほんとごめん。妖精王の声、私がしゃべってたの」

「……は?」

「私が頭の中で考えたことを、妖精に頼んで声色を変えて音にしてもらったの。私、理不尽なことがあると、頭にきて我慢できなくなるの」

「えっと…。では、妖精王陛下は?」

「私が勝手に名乗っただけ。妖精王なんて、いるかどうかも分かんない」

「わ、わたくし、本当に怖かったんですのよ! 妖精王陛下の逆鱗に触れてしまったと思って泣きそうでしたのよ!」


へたりこみ、ポカポカとティナを叩くクラウ。


「ごめんなさい、ほんとごめんなさい」

「…あの光の槍は?」

「あれも私。魔法で作ったの。どこにあるか知らないけど、バンハイム王国のお城までなんて飛ばないから。至近距離でぶつけたとしても、壁に大穴が開くくらい。妖精がやったのは声を変えたのと額の×印だけ。髪の毛は私が魔法でちりちりにしたの」

「はあぁぁぁ、力が抜けました……。でも、わたくしも理不尽だと思って断る理由を考えていましたので、方針としては間違っておりませんわ」

「だけど、私のせいでバンハイムと敵対しちゃったよね」

「ティナ様、それは違いますぞ。相手が先に敵対したのです。はとこ殿が上納金と伯爵への借財を支払わなかったため、こちらから金を取ろうと脅してきたのです。しかも実際に支払っていないのかどうかもこちらには分かりません。おそらく隣領の伯爵も、はとこ殿の借財未返納を理由に、上納金を出し渋ったのではないでしょうか。旧都領主の解任理由は領内の監督不行き届きと上納金の未納。これははとこ殿の責任であって、旧シュタインベルク領の領有権を主張せず、この都市だけを治める我々に責はございません」

「でもここもシュタインベルク領の一部だから、本来は税の支払いが必要なんじゃないの?」

「この場所は五十年ほど前に放棄されております。我々は放棄された土地を再生して、この城塞都市だけを領有しておるのです。極論を言えば、土地を開拓して新たな領を作り、未だどこの国に属するかは決めていないのです」

「うーん、この地に隣接する他国があればその言い分もアリかもしれないけど、ここの周りってほとんど未開地だよね。どこが領有してるの?」

「どこも領有しておりません。下手に未開地や放棄地の領有権を主張すると、魔獣被害補償の義務が発生しますから。例えば魔獣が未開地からあふれ出して町や村を襲った場合、その未開地の領有権を主張している者は被害の救済に当たらねばならないのです」

「なるほど、領主には領地の管理義務があるから、管理出来ない未開地や放棄地なんか領有したら、負債になりかねないのか」

「さようにございます。しかもこの場所、放棄された理由が魔獣に襲われたからでして、五十年も前に領有権を放棄されております」

「え? 洪水とかで廃村にしたんじゃないんだ?」

「はい。当時シュタインベルク家の家令を務めていた父に連れられて村人の移送に同行しましたので、よく覚えております。廃村当初、川は村内を流れておりませんでしたが」

「じゃあここは新規の領と考えて問題ないんだ。でも、結局帰属先って、さっきの奴らの王国くらいしか無いんじゃない?」

「帰属の件は何度かクラリッサ様ともご相談しておりましたが、先ほどの妖精王陛下のご来臨で現実味が見えてまいりました。いかがなさいますか、クラリッサ様」

「そうですわね。わたくしは、出来れば妖精王国に所属したいですわ」

「ふぁっ!? そんな国無いって!」

「廃村に追放された我々の命を救い、たった四ヶ月で五千人規模の堅牢な城塞都市を作り上げ、目を見張る効果のポーションと魔法を伝授いただき、さらには生活物資や小麦、砂糖の原料までご支援いただきました。これほどの助力を惜しまず与えて下さった妖精王国に帰属したいと思うのは、当然でございましょ」

「だから妖精王国なんて無いから!!」

「ございますわ。妖精が住まう大自然が妖精王国なのです」

「仮想王国なんかに帰属したら、ここだけで他国と渡り合うことになりかねないよ!!」

「なりますでしょうか? 現在、妖精王国と妖精王陛下の存在を知っているのは、我々と先ほどの慮外者のみ。慮外者は妖精王陛下の超常のお力を目の当たりにしております。辺境の廃村だった場所を手に入れるために、あのようなお力を持つ妖精王陛下の加護があると知っていて、わざわざ軍を派遣するでしょうか?」

「いや、上位貴族や国王なんて肥大したプライドの塊みたいなの多いでしょ。プライド傷付けられたからって、採算度外視で来ちゃうかもしれないじゃん!」

「ここからバンハイム王国王都までは500km以上離れています。ここを攻略できるほどの軍を派遣するなど、国の財政が傾きますよ」

「近隣の領に討伐命令出すかもしれないじゃん」

「ここは最辺境です。隣接しているのは、五百の兵を派遣して逃げ帰った伯爵領だけですぞ。派兵しますかね」

「……近隣領連合軍とか」

「伯爵領には子爵領を与えれば良いでしょうが、他の領には何を与えますか? 領の飛び地など誰も欲しがりませんぞ」

「……お金とか爵位昇爵とか」

「爵位が上がっても、領地が増えなければ派兵の元は取れません。バンハイム王家が派兵の軍事費を払えば、結局は財政難になります」

「………クラウちゃん、アルノルトさんがいじめて来る」

「心外な。いじめてなどおりませんぞ」

「まあ。上納金を安くしてくださると、アルノルトの機嫌も直りますよ『妖精王陛下』」

「ほっほっほ。左様にございますな」

「うそん、まじ?」

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