妖精王登場

「どうされた子爵殿、国王陛下のご命令であるぞ」

「不許可だ」


突然響く男の子のような声。


「な、何者だ!? 陛下のご命令に対して不敬であるぞ!」

「不敬は其方らだ。我は妖精王。妖精の王たる余が命ずる。そちが上納金と借財を支払え」

「な、何を言っておる!? そのような道理は無いわ!」

「其方と同じことを言うたまで。つまりそなたの言に道理はない」

「き、き、貴様! 姿もあらわさず国王の使者を愚弄するなど、捨て置かんぞ!!」

「余の姿が見えぬは其方の心が汚れておるだけよ。余を捨て置かぬか。ならば如何する?」

「我が王国への反逆として、この地を滅ぼしてくれるわ!」

「ほう、宣戦布告か。良いぞ、受けて立とう」


言葉と共に、燦然と輝く巨大な光の矢が、窓ガラスの向こうに現れた。

室内が炎天下のように明るくなり、輻射熱が肌を炙る。

光の矢は王都の方角を向いているようだ。

この異常事態に、まずい状況になったかもと初めて気づき、うろたえだすバンハイム王国の使者。


「お、お待ちください妖精王陛下。妖精王陛下には初めて御目文字いたします。このようなご拝謁となりましたこと、幾重にもお詫び申し上げますが、先ほどの話はわたくしたち人同士の話にございます。なにとぞお怒りをお沈め下さいませ」


椅子から降り、跪いて頭を垂れ、赦しを乞うクラウ。

シュタインベルク家の面々はバンハイム王国の使者を迎えるにあたり、最初から跪いている。


「そ奴は一介の使者の分際で、余が加護を与えたこの地を滅ぼすと放言しおったのだ。余がそ奴の主に罰を与えるべきであろう?」

「加護を頂戴しましたことについては、この地の者全てが感謝いたしております。此度の事、妖精王陛下のお怒りはごもっともと存じますが、相手はただの使者。妖精王陛下御自らお力を振るわれるのはもったいのうございます」


クラウが話している間にも、光の矢の輻射熱で、窓ガラスがオレンジ色に溶け始め、石の壁も溶けて穴が広がって来ている。


「しかし、余が名乗りを上げたにもかかわらず、跪かぬばかりか愚かにも放言を放ちおった。罰は必要ぞ」


肌を焼きそうな輻射熱に怯え、力の差を感じてやっと平伏する使者たち。


「罰ならわたくしが与えます。妖精王陛下への不敬にて、この場で斬り捨てましょう」

「余が加護を与えた場所を血で汚すな」

「も、申し訳ございません! それなれば、いかがいたしましょうか?」

「ふむ。相手の王の真意も確かめずに他国の城を吹き飛ばすのは、ちとやりすぎかもしれぬな。妖精らよ、こ奴に罰を与えよ」


窓の外の光の矢は瞬時に消え、同時に輻射熱も治まってきた。

使者たちは妖精王が自分たちの国の王城を破壊する気だったと気づき、その場にへたり込む。

そして放言を放った使者の髪がチリヂリになり、額に大きな×マークが刻まれた。


「ギャー、熱い、痛い!」

「ふむ、それが罰か。まあ良いであろう。そこな愚か者に命ずる。今回の件、そなたらの王の真意と戦意を問い、必ずクラリッサに伝えよ。ではクラリッサよ、余は妖精界からここを見守るとしよう。壮健でな」

「ありがとう存じます。必ずやバンハイム王国の真意と戦意、確認いたします」


フォン


一瞬だけ風が吹き、室内には溶けたガラスが冷えるチリチリという小さな音だけが残った。


「バンハイム王国の使者殿、妖精王陛下の命、ご理解いただけましたか?」

「ううぅ、わ、わかった。必ずや国王陛下の真意と戦意、確認してお伝えする。だから治療を頼む」

「出来ません。それが妖精王陛下の罰なれば、わたくしが勝手に治療することは不敬になりかねません」

「そんな……」


額に×マークを付けた使者は、残った二人の使者に腕を抱えられ、逃げるように引きずられていった。

そして使者一行は、まともな挨拶すらせずに領主館を出て行った。


馬首を廻す際に使者たちの目に入ったのは、ガラスだけでなく石材までもが溶け、大穴の開いた領主館の一角だった。

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