変なのが来た

七月、次々とやってくる移住者で、新都の人口は七百人を超えた。

新都の最大居住人数は五千人を想定しているのでまだまだ余裕だが、人口の増加速度が異常に早い。

このままの増加速度であれば、数年で城壁を拡張しなければならなくなる。

アルノルトは子爵領の領都となっても十分な広さだと言っていたので、増加率もそのうち鈍化するだろうが。


春に蒔いた小麦は収穫され、食料事情も安定し出した。

今では大通りに商店も並び始め、衣服や食料の供給を代行していた領主館は、やっと物資の供給から解放された。

人口が増えたことで、政務も増えてしまってはいたが。


また、ティナ発案の学舎も授業を始めていた。

当初は駆けまわっている子どもたちをティナがおやつで釣って、四則計算や文字の読み書き、魔法やポーション作りを実戦形式で教えていたが、子どもが増えたことで手が回らなくなり、移住者の知識人をクラウが雇って引き継いだのだ。


この世界、平民は基本朝夕二食なので、勉強後におやつを出すと子どもたちの集まりが良い。

しかも授業が実践的で、算数では実際におやつを買い、国語では看板や資料作りを、さらにポーションを作り、魔法で家具や食器類を作る。

子ども版の職業訓練に近い。


そしてすべての授業にご褒美やお駄賃があるのだ。

通う子どもの人数が増えたことでお駄賃やご褒美の出費は馬鹿にならないが、これらはティナやアルが用意している。

ティナはポーションの販売代金と土地の貸出料を使い、アルはおやつや知育玩具、衣服なども提供している。


授業料は無料なので、アルノルトなどは『教育とはお金を支払って知識を得るもの。こちらから無償で与えるのは…』と懐疑的だが、子どもたちが育てば意義を理解してくれるだろうとティナは考えていた。


そんなある日、馬に乗った金属鎧の一団が新都を訪れた。

接近には当然アルが気付いていたが、目的に関する会話が拾えなかったために目的不明だ。

正門で出迎えたアルノルトとカーヤに、一団はバンハイム王国国王の使者と名乗った。


アルノルトたちに先導されて領主館に入った一団は、客室で休憩した後に服装を改め、代表三人がクラウに謁見した。

謁見には、初期メンバーとティナも同席した。


使者が話す口上は驚くべきものだった。


「領主の現子爵は、領地の管理不行き届きと上納金未納のため領主権限と子爵位を剥奪。

クラリッサ・シュタインベルクをシュタインベルク領の正統な後継者と認め、子爵位と領主権限を与える。

シュタインベルク領領主は、未納となっている今年度の上納金と延滞金、隣領伯爵家への借財を速やかに支払うように。

以上、国王陛下のご命令である」


つまり、クラウのはとこは金を払わないから、代わりに領主にしてやるからお前が払えと言うのである。

こちらに戦力が無いと見て、かなり横暴な要求をしている。

クラリッサは一瞬返事に戸惑い、無言の間が空いた。

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