またか。もっと嫌がらせしよう

新都は、第二期移住者の受け入れ準備に大忙しとなった。

アルとティナは住宅建設、クラウとアルノルトは受け入れ後の支援と人員配置計画策定、ユーリアとカーヤは狩人育成と食肉確保に奔走した。


そして二百余名の移住者がやって来た。

数日は第一期の移住者たちも含めて大わらわだったが、新都の人口は三百人を超え、徐々に町として機能し始めた。


【ティナ、申し訳ありません。情報収集に穴がありました。旧都の領主が、隣の伯爵領に兵の応援を頼んだようです。現在伯爵領から旧都に向けて、五百人規模の兵が進軍しています】

「ありゃま。情報収集の穴は仕方ないよ。旧都にばかりドローン配備出来ないし。それで、目的は分かったの?」

【はい。兵数でごり押しして、ここを接収するようです」

「旧都まではどれくらい?」

【あと六日程度です】

「六日もあるって事は、まだ伯爵領の領都の方が近い?」

【はい。伯爵領からシュタインベルク領に入ったばかりですね。襲撃して追い返しますか?】

「うーん。…旧都の手前で一泊する時に、飲み水に下剤仕込んで」

【それだと、旧都に兵が到着してしまうのでは?】

「その方が好都合だよ。下痢なら無理して旧都に到着出来るだろうけど、すぐにこちらには出発出来ない。体調戻してから出発したら、またすぐ下痢になるの。すると旧都が近いんだから戻るよね。そしてまた体調を戻す。その間旧都の食料は、五百人分余分にかかる。何回か繰り返せば諦めるでしょ」

【旧都の食料浪費が目的ですか?】

「食料浪費による物価高騰で子爵の悪評を煽ること。あと、子爵と伯爵の仲違い狙い」

【悪評が目的でしたか。伯爵は今回部隊派遣に協力しているのに仲違いするんですか?】

「伯爵は無料で兵を貸したりしないでしょ。じゃあ金銭か領地の割譲か、それなりの見返りは貰うはず。でも子爵はここを接収出来なきゃ収入にはならない。伯爵としては五百の兵を何十日も貸すわけだから、子爵の目的が達せられようが不達だろうが、当然見返りは要求する。子爵は目的が達せられてない上に食料浪費されたから払いたくない。だから揉めてくれると思うんだ。これで子爵の味方が減ればいいなぁって」

【そのようにして戦略は組み立てるのですね。そしてそのための戦術が下剤混入と。学習しました】

「アルってさ、私の脳内をフルスキャンしたんだよね? 前の時も思ったんだけど、なんで私の思考パターンをシュミレーションに使わないの?」

【思考パターンや判断基準などは人格形成の重要部分です。AIが人の人格をコピーするのは、AI最大の禁忌です】

「あ、そうなんだ。別にコピーしてもいいのに」

【ダメです。極論を言えば、私の中に身体の無いティナを作り出すようなことなんですよ。絶対に出来ません】

「そう考えると倫理的にもまずいね。じゃあ、これからも戦術や戦略は勉強して行こうか」

【了解です】

「じゃあ、クラウに作戦の承認貰いに行こう」

【おや、前回は事後報告でしたよ】

「うん、私反省したの。クラウはここのトップなんだから、ここに関することで私が勝手しちゃいけないなぁって思って。事後報告したら跪かれたし」

【ここに関する政治的事案ですから、事前協議と承認は必要ですね。未実行の作戦案ですから跪かれることも無いでしょう】

「そうだよね。じゃあ行ってくるよ」

【了解です】


ティナの提案は即座に受け入れられた。

実際に新都で戦闘になれば、双方に必ず死者が出る。

撃退するまで戦えば、かなりの死者数になるだろう。

クラウたちは妖精(ドローン)の力を目の当たりにしているため、妖精が加勢すれば相手の被害は甚大になってしまうと考えたのだ。

相手の兵士に下痢というダメージは与えるが、新都まで来てしまって死ぬよりは随分とましだと判断したようだ。

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