嫌がらせ効果
ティナは作戦が成功したことで、直近の脅威がなくなったとクラウとアルノルトに報告した。作戦内容も明かして。
「……あくどいですわ」
「左様でございますな。元同僚として、同情を禁じえません」
「ちょ、ひどくない!? 私、シュタインベルク領の領兵を傷付けないように一生懸命考えたのに!」
「そのことについては本当に感謝していますわ。ただ、顔見知りの兵の惨状を思うと、つい…」
「ティナ様、兵を傷付けないご配慮には幾重にも感謝いたしますが、精神的にはボロボロでは?」
「う、ごめんなさい。ちょっと悪乗りしたかも。でもね、結果はまだ出てないんだよ。逃げ帰った兵士たち、どうすると思う?」
「それは当然上司に報告するでしょうな。鬼気迫る報告が目に浮かびますぞ」
「その後よ。どうするかな?」
「知人や家族にも恐怖に顔を引きつらせながら話して、今後の出兵は辞退……。はぁ、ティナ様の作戦は、そこまで見越したものですか。話を聞いた者は兵の二の舞を恐れ、領主の指示に従わなくなる。平民なら領主の命に背けませんから、命令を聞きたくなければ逃げるしかない。貴族籍を持つ者も、出兵要請を固辞して領主との関係が悪くなるでしょうな」
「そうなの。そのためにはどうしても、超常現象による恐怖が必要だったんだよ」
「大変失礼いたしました。ティナ様が我々の事を思って行動して頂いたことに、深く感謝を申し上げます」
「わたくしも浅慮すぎました。ティナは私たちやこの町の事を思ってくださったのね。今回のティナの作戦で、私たちはシュタインベルク領の領兵と戦う可能性が、与えた恐怖の深さ分減りました。心から感謝いたします」
「あ、いや、そこまで感謝されると心苦しいよ。ノリノリで作戦考えたのは事実だし」
「ティナ様だけでなく、ご実行いただいた妖精様にも感謝いたします。ですが我々は妖精様のお力添えに甘えてしまっていたようです。威風堂々とした新たな領都の建設も、食料や安全性の確保も、全てティナ様と妖精様のお力なくしては成しえませんでした。そして今回のご配慮。お嬢様、我々はこちらにまいった当初の事を、決して忘れてはならないのです」
「その通りですわ! わたくしは万死の床に臥し、三人を道連れに廃村に放逐されました。今わたくしが新都の領主館にいられるのは、同行してくれたあなた方と、ティナさん、妖精様のおかげ。決して奉謝を忘れてはならないのです!」
「はい、お嬢様! 爺も奉謝の気持ちを心に刻みつけましたぞ!!」
「いや、あの…。お付きの人に感謝するのはいい事だけど、そろそろ私たちへの感謝は…」
「「やめません!!」」
声をそろえ、同時に跪くクラウとアルノルト。
「こ、これが褒め殺しってやつ!? 悶死しそう!」
そして十日後、ティナの作戦は予想以上の効果をもたらした。
【ティナ、旧都を夜逃げした住民たちが集まり、二百人以上がここを目指して移動しています。小型ドローンを二機、支援に廻しました】
「は? なんで!? あれだけ領兵に怖い思いさせたんだから、夜逃げは増えてもこっちに来る人は少ないはずでしょう?」
【最後の子どもたちの笑い声、効果が強すぎたようですよ。旧都では『妖精が死者や魔獣を操って、逃げ出した住民と追放されたクラリッサ様を守っている』と噂されています。ここまで考えて最後に笑い声を聞かせたのですか?】
「いや、妖精の存在を匂わせたかっただけだよ。クラウには妖精が味方に付いてるって解釈してもらえたらいいなぁと思って」
【それが人間的思考ですか。今の私には難しすぎます。逃げ帰った領兵は『正当後継者であるクラリッサ様に弓を引こうとしたから、怒った妖精に罰せられた』とか言ってますよ】
「うわぁ~、そこまで好意的に解釈されちゃったか。言っとくけど、私もこんな結果までは予想してないからね。それは人間的思考でも無理だから」
【でも、『うまくすれば』とは思ってたんですよね】
「圧倒的に怖がられる可能性が高いと思ってたんだよ」
【確率が微少な方の結果になったんですね。それでも予想はしていたと】
「この結果はクラウの人徳だよ。私の想定をはるかに超える人徳があったってことでしょうね」
【なるほど。今後は人徳も変数に入れて予測演算します。ところで微小確率が現実化した今、物資の大幅な不足が予想されます。どうします?】
「他領の農村部に買い出し部隊出したいけど、お金がなぁ…。あ、これ考えるのはクラウの仕事だ。相談しなきゃ」
【そうですね】
クラウと相談した結果、資金はすぐに出て来た。
住民が夜逃げする場合、当然全財産を持って逃げる。
逃亡先では、持ち出したお金で衣食住を賄うしかないのだから。
足元を見られて吹っ掛けられても、支払わなければ死活問題になる。
ところがこの新都では、新築の家の家賃、毎日の食料、衣服すべてが格安で手に入る。畑の貸し出しまで格安なのだ。
住人たちは喜んでクラウにお金を支払っていた。
そして買い出し部隊の派遣は即座に決まった。
中位妖精一体の警護付きで。
「アルぅ、私、知らないうちに大地主になってたよ」
【なんの話ですか?】
「都市って土地は領主のものなんだって。で、アルがこの町の拡張と再建したでしょ。でもクラウは工事代金払えないから、拡張部分の土地の半分が現物支給だって。アルが放出してくれた甜菜や小麦の種、お肉や衣服の代金も入ってた。私たちが協力するたびに、これからも土地の面積増えてくって」
【拡張部分に住居や畑を借りる人が出てくればティナの収入になりますから、金策の心配がなくなりますね】
「金策って…。働いたの全部アルじゃん」
【言いましたよね。私はティナの所有物です。だから収入は全てティナのものです。それに、私はお金をもらっても鋳つぶして修理材に使うくらいしか用途がありませんよ。金銀銅が欲しければ、自分で掘った方が早いですし】
「アルに働かせて収入は全部私って、まるでアルから搾取する悪女じゃん!」
【ティナが持ち物の能力でお金を得たら、それは全部ティナの収入じゃないですか。観念してください。私の所有権は放棄しないでいてくれるのでしょう?】
「うが! 早まったかも…」
【得た収入を、時々私のために使ってくれればいいじゃないですか】
「アルのためって?」
【掘れる土地ください】
「この世界、未開拓の土地は開拓した者の土地になるじゃん! 武力で奪われそうになっても、アル、自分で撃退できるじゃん!!」
【おや、そういえばそうですね】
「うがー!!!」
【ですがここ以前に、最初に開拓したアオラキの拠点もティナの土地ですから、元々ティナは大地主じゃないですか】
「あ゛? …そういえばあそこもあったんだった。あの谷って広さどのくらい?」
【この都市が十個ほど入りますね】
「おぅ……」
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