もっと手助けしちゃおう
翌朝、令嬢の部屋前の廊下には、丸いアンティーク調のサイドテーブルの上に、堅焼きのクッキーが感謝の手紙と共に乗せられていた。
アルから報告を受けたティナは、人通りが無くなった隙を見て、手紙とクッキーを回収してもらった。
「堅い…。でも感謝の気持ちは無駄にしたくないから食べる」
【薪をお返しにしておきましょう。あと、隙間風と雨漏りが無くなるように、こっそりと修繕しておきます。不足品があれば手紙に書いてもらったらどうですか?】
アルはティナの救助後初となる人的交流の機会を逃さぬよう、張り切っていた。
「うーん、小麦粉とか野菜、服なんて書かれたらどうするの?」
【電力さえあれば小麦粉や野菜は分子構造の似ている物質から分子変換機で作れますし、服も製造可能です。食料生産や消費材の生産設備は、第一優先で修理しましたから。ティナの服もこの能力で作りましたよ】
「そうだった。私、超高性能の服作ってもらってた。さすが超科学の謎技術。でも電力消費が大きくなって、修理が遅れたりしない?」
【掘削で分厚い石炭層を発見しましたので、簡易的な二酸化炭素非放出の火力発電を製造しました。従って現在の電力事情は潤沢ですよ】
「おお、二酸化炭素放出しない火力発電まで作っちゃったんだ。じゃあ分子変換機で何とかなるか。服は私のみたいにとんでも繊維使わない?」
ティナの服は、宇宙服にも使われる断熱性能と衝撃吸収能力を備えた特殊繊維製だ。
他者に広めるのはリスクが大きすぎる。
【タオルなどのストックを流用してもいいですし、原材料を自生綿花や類似植物から手に入れれば、紡績や織布、製縫も可能です】
「アルってそんなことも出来るんだ」
【未開惑星で乗務員用の消費材を作るための能力です。食料や衣類などを現地調達できなければ、何十年もの資源探査なんて無理ですよ】
「そうだった。宇宙に出た事なんて無いから、すっかり忘れてたよ」
【艦の修理が終わったら、月旅行くらい行けますよ】
「おおぅ、それはぜひ行ってみたいね。期待して待つとして、今はご令嬢にお手紙書くから、配達お願いね」
【了解です】
「クラリッサ様、知らぬ間にテーブルに置いたクッキーとお手紙が無くなっていました。妖精様が受け取ってくださったようです。しかも外には大量の薪と新たなお手紙まで置かれていました。こちらをお読みください」
ティナはいつの間にか妖精様に昇格していた。
主人である令嬢だけでなく、使用人にまで人知の及ばぬ奇跡のような薬を無償で分け与えてくれた姿の見えない存在。
神のように崇めたいが、手紙には女の子とあった。
ならば神格化は不適当であろうと『妖精のような少女』を経て『妖精様』となったのだった。
「まあ、嬉しいわ。病気が治ってもわたくしたちの事を気にかけて下さっているのね。ユーリア、毎日なにかお供えしましょうよ」
「承知しました。食料は多めに持ってきておりますので、ご用意いたします」
「アルぅ~、私妖精様呼びされちゃってるよ~。しかも毎日食べ物のお供えなんて、冬ごもりの食料がもったいないよ」
【ではまたお手紙を書きましょう。こちらの食料は潤沢だからと伝えて、お手紙のやりとりだけをお願いしてみては? 名前も愛称でしたら伝えてもいいでしょう】
「うん、そうする」
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