手助けしよう
そして夜、ティナの手紙とポーション瓶に入れた液状ピコマシン四本を持った小型インビジブルドローンは、令嬢のいる建物に侵入した。
だが、どうしても病室となっている部屋に入れないのだ。
部屋のドア前には老執事が立ち、中のメイドとのやり取りも、ドアを少し開けるだけで済ませている。
病気で追放されたにしては、手厚い体制だ。
「うーん、困った。こりゃ枕元には無理だね」
【窓も寒さ対策で木板で塞がれてしまいました。木板越しのサーモグラフィーなので誤差がありますが、熱が40℃近くまで上がっています】
「仕方ない。執事さんの前に瓶と手紙置いて、置いた物のインビジブル解除して」
【了解です】
いきなり足元に現れた瓶と手紙に驚いて、剣に手をかける老執事。
しばらく身構えながら注意深く観察していたが、やがて封をされていない手紙に目を通した。
『私は上位貴族の父に理不尽な理由で捨てられた。あなたの事情は分からないけど、離れとかじゃなくてこんな場所に送られるなんて他人事とは思えない。だからその病気を治す薬をあげる。理不尽に抗いたければ飲んでね。みんなに感染ってるといけないから、四人分用意したよ。感染ってなくても予防薬になるから一本ずつ飲んでね。同じような目に遭った女の子より』
しばらくティナの手紙を握りしめていた老執事は、いきなり一本の瓶の中身を飲み干した。
そして十分以上、立ったままだった。
「うわぁ、この執事さん自分で毒見しちゃったよ。まあ、予防薬として効くからいいんだけど」
【この老人も感染していたようですね。体温が平熱に戻りつつあります】
「そっか、よかった。じゃあ早く女の子にも飲ませてあげて」
【そうするようですね。おそらく自身の体調が改善したことで、効くと実感できたのでしょう】
老執事は残り三本の瓶を大切そうに胸に抱き、病室のドアをノックした。
憔悴した表情の若いメイドが、ドアの隙間から顔を出す。
「どこのどなたかは存じませんが、お嬢様に薬を届けて頂きました。私自身が試したところ、毒などではなくきちんと効く薬のようです。お嬢様に飲ませてあげてください」
「え? このポーションですか? 医師からいただいたポーションはほとんど効きませんでしたよ」
「私が十分ほど前に試しました。熱で身体が怠かったのですが、たった十分でかなり解消しました」
「…お嬢様に飲んで頂いても大丈夫でしょうか?」
「お嬢様の体温が異常に上がっているのでしょう。このままではお嬢様が危険です。私が責任を負いますから、飲ませて差し上げてください」
「…承知しました。では介助をお願いします」
メイドと共に部屋に入った執事は熱で意識が朦朧としている令嬢をベッドに起こし、メイドがアル製ピコマシンポーションを飲ませた。
「残り二本はあなたとカーヤの分です。貴女も熱があるのでしょう?」
「はい、カーヤもです。明日の朝に交代する予定でしたが、起きられるかどうか…」
「すごい効き目ですよ。飲むと徐々に楽になって、十分後にはかなり楽になります」
「そんなに効くのですか? カーヤを起こして一緒に飲みます」
そして夜中、廃村に残った全員が起きていた。
「アルノルト、それは本当ですか? 誰もいないのに一瞬でポーションが目の前に?」
「はい、クラリッサお嬢様。全く気配が無いのに一瞬後には手紙と共に現れました」
「……この手紙によれば、薬を届けて頂いたのは私のように家から追放された貴族のご令嬢ということになりますが、姿を消す魔法など無いのでしょう?」
「私の知る限りではございませんね。姿どころか気配すら感じさせない魔法など、もはやおとぎ話です」
「そうよね。…こんな廃村に追いやられる後ろ盾の無いわたくしに味方しても、メリットは全く無いわ。この方は本当にわたくしに同情して薬をくださったのね。あれほど苦しかったのが嘘のように楽になる薬なんて、姿を消す魔法同様聞いた事がない薬だわ」
「お嬢様のご病気は、症状や医師が隔離を指示したことから見て、おそらく星の影響病だと思われます。この病気は王族ですら逃れようが無い病で、治療薬どころか隔離以外の予防法すら発見されていません。おそらく手紙の方は先の魔法も含め、人知を超えたお力をお持ちなのでしょう。そうでなければ、我々が到着したその日のうちにある程度の事情を察知して特効薬を届けるなど、出来ようはずもございません」
「やはり星の影響病でしたか。そうなると、わたくしは本来ここで死ぬ可能性が高かったのに、この方の人知を超えたお力で生を繋ぐことができたのですね。しかも理由がご自分と似た境遇だったから。この方はきっと、理不尽に抗って努力して力を手に入れられたのでしょうね。わたくしもぜひ見習いたいですわ」
「さようでございますね。これから雪が深くなりますので春までは往来は困難でしょうから、ここに籠ってお嬢様には爺の知識をお教え出来ればと思います。ユーリアとカーヤに色々と習うのも良いでしょう」
「ええ、せっかく助けて頂いた命ですもの。出来るだけ価値あるものにしたいですわ。皆、よろしくね」
「「「はい」」」
廊下にいるドローンから音声だけで様子を窺っていたアルとティナは、話の内容から令嬢が回復したことを悟り、安堵していた。
「アル、色々頑張ってくれてありがとね。これでこの子たちは大丈夫そうだよ」
【そうですね。しかし保存食は冬を越せるだけの量がありそうですが、薪が少ないですね。また届けますか?】
「うん。隙間風とか多そうだから、このあたりの木を切って乾燥させて届けてあげよう」
【了解です】
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