スローライフ?
そしてティナのスローライフが始まった。
最初の一か月ほどは雑貨や小物類を作っていたが、徐々に作る物が無くなって来て、時間を持て余しだした。
そしてティナは錬金術師になった。
最初は薬師のつもりで始めたのだが、化学実験のようにフラスコやビーカーを使って草木や鉱物から薬効成分を抽出するのは、この世界では錬金術に分類されているようなので、錬金術師を名乗ることにしたようだ。
アルに成分抽出を頼めば直ぐなのだが、ティナは自力で薬を作ることに拘った。
無職は嫌だとティナは言っていたが、普通五歳の幼女は無職だろうに。
人里離れた森の中で怪しげな方法で薬を作る幼女。
ティナは『いっひっひ』とか声を出して魔女ごっこをしていたが、アルには不評だった。
アルの協力で真面な薬効成分のある薬を作り出せたティナは、次にポーション作りに手を出した。
アルが使い捨てられたポーション瓶に残った液体を分析したことから、ポーションの正体が判明したのだ。
薬草粉+水+水に魔素を多量に含ませるための水溶性物質。
これがポーションの正体だった。
薬草は解毒だったり細胞増殖用栄養素だったり神経伝達物質の増強だったりと色々だが、いずれのポーションも薬草の薬効を魔素によって飛躍的に高めている。
また、魔素を多量に含ませるための水溶性物質も、製作者によって違いがあるようだ。
だが、いずれのポーションも不純物が多く、意図せぬ副作用が出やすい。
中には薬効成分を阻害してしまうものや、毒になりえるものまで入っている場合がある。
おそらくは薬効成分だけを取り出さずに、効果のある薬草をそのまますり潰して使った、いわば薬草粉+魔素水なのだ。
どうやら作り方は秘伝のようで、厳重な密室で製造されていて製作過程までは判明していないが、もし薬効成分+魔素水でポーションを作れば、効きが良く弊害の少ないポーションができるのではないか。
効きが良すぎて副作用が出るかもしれないが、その時は用量を減らせばいいとティナは考えていた。
薬師やポーション屋さんなどは女の子ファンタジーの定番と、ティナは俄然やる気になった。
ティナとアルは様々な実験をして魔素水の魔素濃度を高め、色々なポーションを作り出した。
そして野生動物での効果実験を繰り返し、ティナのポーションは完成した。
付録として、動物実験の際に森に入ったティナと護衛ドローンは、何度も魔獣に遭遇。
これを撃退して魔核を破壊することで、ティナのレベルもポンポンと上がって行った。
そしてティナの魔法が進化した。
対魔獣専用のアロー系魔法が出来たのだ。
今までの魔法は、いずれも魔力が物理現象に変換されていた。
そのため魔獣を倒す場合は、魔獣の魔力による防御を貫くために、パワーでごり押ししていた。
ティナは魔力がもったいないと感じ、アロー系の先端に魔獣の魔力防御を貫くための魔法を追加した。
要は、魔核破壊魔法と同じような事をやったのだ。
これで魔獣の魔力による防御を魔法の当たった部分だけ通常の生物と同様の防御力にし、後に続くアロー本体がダメージを与えるように出来た。
魔力消費は、ごり押しの時と比べて八割ほども減少。
強い魔獣になれば効果を得るための魔力消費量は増えるが、比率的にはごり押しの二割ほどで済むようになり、魔獣討伐の継戦能力が格段に上がった。
ポーション作りがひと段落して魔獣討伐に傾倒し始めたティナを見て、アルは危険回避の提案をした。
【ティナ、季節による魔獣の大量移動を予測できず申し訳ないのですが、この家を放棄しませんか?】
「やだ。魔獣が多くなっても対処出来てるんだからいいじゃん」
【しかし移住前に観測した時と比べて四倍以上ですよ。危険では?】
「危険って言うけどさ、私のレベルが上がりすぎて、身体能力や魔法の威力、跳ね上がってるよ。対魔獣用のアローも出来たし。ちゃんと計算に入れてる?」
【乗務員を可能な限り危険から遠ざけるのは当然です。ティナの能力は関係ありません】
「今の私の能力でこの森が危険かどうか、ちゃんと計算して。ここにいるのはアルの母星の人じゃなくて、レベルアップする現地人の私なんだから」
【…】
「だんまりはズルいよ。計算結果は?」
【極小です】
「じゃあここにいてもいいよね?」
【最近では家の近くまで魔獣が接近してます。鬱陶しいでしょう?】
「またズルした。私の質問に答えて無いよ。元々私が暇だから移住したんじゃん。暇つぶしになって丁度いいよ。レベルが上がって強くなれるし、護衛ドローンあるから不意打ちも食らわないよ」
【……仕方ないですね。こちらでの活動継続に同意します】
「ありがと。ところでさ、今の私の強さってアルが観察した現地人の中ではどのくらいなの?」
【……戦闘を生業にしている者と比較しても、かなり上位の方かと。アロー系、ボム系、ビーム系などはティナ以外使ってませんし、対魔獣限定なら、私が調べた中では最上位です】
「言い淀んだりしなくていいよ、慢心したりしないから。私の理想はね、私の戦闘力だけで騎士団を圧倒出来たり、魔獣のスタンピードを殲滅出来るくらいになりたいの」
【私は不要ですか?】
「違う違う。アルの武力を極力争いに使わなくてもいいようにしたいだけ。私はアルの所有者だから、アルが望まない兵装の行使は避けたいんだよ。しかも私は大人たちの勝手な都合だけで修道院に入れられて殺されそうだったから、理不尽な事には耐えられずにケンカ売っちゃうと思うんだ」
【しっかりと所有者の自覚を持っていただいているようで、嬉しい限りです。では理不尽に対抗できるよう、ティナの理想に向けて頑張りましょう】
「うん!」
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