初めての我が家

方針を冬場の移住へと変更したアルとティナは、話し合った末に比較的温暖な未開発地域に家を建てた。

場所は現在の拠点から60kmほど北西、ドイツのベルヒテスガーデンのラムサウ村のような、山脈と森、急流と湖、大自然しかない景観だ。

そんな山間の急流傍に建った家の前で、ティナは感動に打ち震えていた。


「アルさん! あんた最高だよ!!」

【気に入ったようですが、元々はティナの記憶にあった建物ですよ。あと言葉遣いが変です】

「変にもなるよ! 私、前世でこんな家に住むのが夢だったの。それをたった一週間で建てちゃうなんて…。夢を実現させてくれたアルに大感謝!!」

【ティナが嬉しいならなによりです】


ティナはこれから住む家の前で、全身で歓喜を表していた。

はたから見れば、変な踊りにしか見れないが。


ティナが歓喜の舞を舞うことになった家は、チューダー様式のハーフティンバーで、地下二階地上二階プラス屋根裏部屋付き。


外観は一階がダークブラウンのレンガ壁、二階は白い漆喰にブラウンの柱が良いアクセントになっている。


建物自体は長方形だが、屋根は切妻屋根がL字型にくっついたような形になっていて、Lの右が正面側。下の出っ張り部分が玄関だ。


屋根材は全てスレートに偽装したソーラーパネルで出来ている。

正面から見える屋根の右には、小さな三角屋根のドーマーがちょこんと乗っている。

素朴さと可愛らしさが同居したような家だ。


内部は地下一階が物置と貯蔵庫だが、隠し階段で地下二階へ行けるようになっている。


地下二階には、上水道と下水浄化設備、川から分岐した地下水路での発電機と蓄電システム、そして緊急用の医療ポットが隠されている。


地上一階はリビング、ダイニング、キッチン、浴室、トイレ、ランドリースペース。


内装は基本、木目を生かした板張りと丸太の柱。梁も無垢材だ。

リビングにはレンガで囲ったビルトインタイプの薪暖炉もある。


キッチンはアンティークな木製L字型キッチンに、アイランド型のシンクが無垢材のダイニングテーブルとくっつけて置いてある。

竈は薪タイプに見えるのにIH式で三口、焚口に見える部分はガラスで密閉された電気オーブンだ。


二階は片方の壁が斜め(屋根の傾斜の下半分)になったログハウス風の寝室とサニタリー、トイレ、そして一応客室もある。


屋根裏部屋は何も置いて無いが、一応物置スペースだ。


内覧を終えたティナは、感動しすぎたか目に涙を溜めて祈りのポーズだ。


「アル神様、ありがとうございます」

【祈らないでください、私は神ではなくAIですからね。でも、大人サイズで作ってしまって本当に良かったのですか?】

「うん、私が大人になってもずっと大切に住むんだ。しばらくは踏み台使うし、高い場所は魔法で何とか出来るから」

【ここは冬場だけの避寒地ですよ。まあ、艦が直れば、この家程度でしたらフロントデッキに収納できますから、将来的には持ち運び可能です】

「まじで?」

【この世界には無い技術をかなり使ってますから、接収や占拠されないように移動可能な設計です】

「良かったぁ、ずっと住めるんだ」

【艦が直るまでに接収されそうになったら、爆破しますよ】

「…やだ。早く直して」

【了解です】

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